日本の異能 グリー田中良和【湯川】

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ソーシャルの牙城を崩すモバイルの波

 米Microsoftの牙城は、オープンソース技術やインターネットの普及が崩した。インターネットの普及とともに急成長した米Yahoo!の牙城は、検索技術が崩した。検索技術で天下を取ったGoogleの牙城は、ソーシャルの津波が押し流そうとしている。そしてそのソーシャルの津波に乗って今後影響力を拡大させていくのがFacebookである。

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IVSのパネルを務める田中氏(2010年12月9日 撮影:本田正浩)

 これから始まるFacebookの時代に、日本のベンチャー企業が取るべき進路は2つ。1つは、このFacebookの時代の中でどれだけ有利に立ち振る舞うかという道。もう1つは、数年後にFacebookの牙城を崩す立場になることを目指して動き始めるという道だ。

 Facebookの牙城を崩す技術は、何になるのだろうか。わたしはモバイルではないかと常々考えている。

 グリー株式会社代表取締役社長の田中良和氏もモバイルを最重要技術として位置づけている。ただ田中氏と話をしていると、彼が単にモバイル機器の話をしていないことがよく分かる。

「今は、iPhoneやAndroidのOSが、テレビ、ゲーム機、タブレット機など、すべての機器に共通のものになっていっている。コンピューティングのプラットフォームが一新されようとしているわけです。10年、20年に一度しかなかないパラダイムシフトがモバイルの端末から始まっているんだと思っています」と田中氏は語る。

 20年近く前には、パソコンメーカーはそれぞれ独自のOSをパソコンに搭載していた。それがMS-DOSという共通のOSになり、Windowsとして進化することで、その共通OS上でものすごいイノベーションが起こった。今起ころうとしていることは、パソコンどころか、ありとあらゆる機器のOSの共通化である。よってパソコンOSの共通化をはるかに超えるイノベーションが起る可能性がある。田中氏はそう認識しているわけだ。

重要なのは設計思想

 田中氏と最初に言葉を交わしたのは、恐らく7年ほど前だったと思う。彼がまだ楽天の社員だったころだ。ブログやSNSが登場し話題になり始めた頃、そうしたブログやSNSの開発者を集めたイベントがあった。田中氏は、そのときのパネルの一人として登壇していた。パネラー各人のブログ、SNSの社会に与えるインパクトについての見解はどれも似通ったものだったが、田中氏だけが独自の着眼点から時代の流れを読んでいた。彼の読みが正しかったかどうかは別にして、彼の考え方は非常におもしろかった。そのときわたしは直感的に「かれは日本のIT産業を背負っていく人物の一人になるのではないか」と思ったことを記憶している。

 その後田中氏は独立しグリーを設立した。しかしパソコン上のSNSのシェア争いでミクシィに事実上敗退。個人的に田中氏に期待していたのに意外とあっさり敗退したことで、当時わたしは自分には人を見る目がないのではないか、と思ったものだ。

 しかしグリーは敗退したわけではなかった。その後のモバイルの領域での見事な復活ぶりは周知の通り。今日でもその躍進はとどまるところをしらず、今では日本で一番テレビコマーシャル多く出す広告主になっているという。あまりの急成長でオフィスはすぐに手狭になり、頻繁にオフィスの移転を繰り返している。最近では昨年7月に六本木ヒルズに移転した。その新オフィスに田中氏を訪ね、じっくりと議論してみた。

 その見事なまでの復活と急成長だが、田中氏に何が功を奏したと考えているのか聞いてみた。もちろんいろいろ要因はあるだろうが、田中氏は「モバイルだけで完結するという設計思想が重要だった」と指摘する。

 「5年前はSNSといえばパソコン上で行うものという考え方が中心でした。モバイル機能をつけるとしても、それはパソコンのサービスの追加のサービスという考え方だった。僕はそうではないと思ったんです。モバイルで完結するサービスという思想で設計したサービスでないといけないと思ったわけです」と田中氏は語る。

 設計思想が重要なことはよく分かる。例えば最近では「ソーシャル」が流行りのキーワードになっているため非常に多くのサービスがソーシャルと銘打っているが、実態は従来のサービスにTwitterやFacebookの「つぶやき」機能を搭載しただけものが多い。設計思想はこれまでのものとなんら変わっていない。

 ゲームでも「うちのサービスにはソーシャル機能は最初からついている。世界中のプレーヤーと対戦できる機能がついているから」というゲームメーカーがあるが、それは一人でも楽しめるゲームに対戦機能がついただけのこと。設計思想は「一人で楽しめるゲーム」である。

 ソーシャルゲームは、仲のいい友人とプレーしなければ楽しくないゲームである。例えば人気の農場ゲームでも、基本的な行為は、「耕し」「タネを植え」「収穫する」というもの。一人でプレーしていても何も楽しいことはない。

 ところが最近あまり会っていない友人が「タネ」をプレゼントしてくれたりする。特にメールで会話するような話もないのだが、気にかけてくれていることが分かって非常に暖かい気持ちになる。年賀状もそうした効果を持つコミュニケーションツールの1つだが、一年中好きなときにそうしたコミュニケーションが可能なのがソーシャルゲームなのだと思う。

 つまりソーシャルゲームは、友人とプレーすることを前提に設計されたコミュニケーションツールなのである。この設計思想がこれまでのゲームとは大きく異なるわけだ。SNSというインフラが出来上がった上で、友人たちと新しい形のコミュニケーションをしたいというニーズの台頭に合わせた設計思想で作られたゲームなのである。

 ケータイが若い世代のコミュニケーションのインフラになる。その上でコミュニケーションを潤滑にさせるサービスが必要となる。そういう思想に基づいて一からサービスを作り直したからこそGREEは急成長したわけだ。パソコンのサービスの追加機能として設計していたのではここまでの成長はなかったことだろう。

 そして今また状況が大きく変化しようとしている。5年後には、モバイル機器を核にありとあらゆるデバイスがつながり、人々は今以上にこうしたツールを使ってコミュニケーションする時代になる。5年前にケータイの普及を見込んで、その上で必要となるサービスを作ったように、今は5年後の時代の変化に合わせた設計思想で、1からサービスを作っていくことが重要なのだと田中氏は主張する。

 今日の状況に合わせた設計思想でサービスを作り成功している今日の覇者が、新しい時代の状況に対応しようとするより、5年先の状況に合わせた設計思想でサービスを1から作り直す挑戦者のほうが有利である。国内のSNSとの戦いでもそうだったし、今後Facebookなどとの戦いでもそうであるに違いない。田中氏はそう考えるわけだ。

機能性に娯楽性を追加し世界のマスを狙う

 具体的にどのようなサービスを手がけていくのだろうか。「今は、スマートフォン対応とグローバル化です」と田中氏は答える。

 「日本のフィーチャーフォンでつかんだノウハウをスマートフォンに応用するだけでも、すごいイノベーション。そこにタッチパネルならでは、マルチデバイスとのつながりの存在という状況ならでは、のイノベーションを追加していくつもり」と田中氏は言う。

 確かにモバイルのソーシャルゲームは、日本が世界で最も進んでいる領域だ。この領域で得たノウハウをスマートフォンに持ち込んで世界展開すれば、それなりの成功を収めることができるのかもしれない。しかし世界の強豪と戦って勝ち目はあるのだろうか。

 「もちろん楽な戦いだとは思ってません。しかしこれまでの国内での戦いでも100倍ぐらいの規模の差があるところと戦ってきたわけです。これからわれわれが戦うソーシャルゲームの大手との規模の差は、せいぜい10倍。以前に比べれば楽な戦いです」と笑う。今回、米国に子会社を設立したが、そのときに製品の責任者は「僕がグリーに入ったときは社員が5人だった。今回は米国では社員10人からスタートできる。なんてラッキーなんだろう」と笑って語っているという。「そういうふうな考え方ができるかどうかがベンチャーとしてやっていけるのかどうか、ということだと思いますよ」と田中氏は指摘する。

 フィーチャーフォンで培ってきたノウハウと、5年後を見据えた設計思想。しかしそれで本当にFacebookに勝てるのだろうか。

 「Facebookを特に意識していないんです」と田中氏は言う。

 それはそれですばらしいと思う。Facebookを意識した時点で、Facebookの作るパラダイムの中で戦うことを意味する。それではFacebookを超えることはできない。大事なのは次のパラダイムを見据えて準備することだ。5年後のモバイルを核にしたマルチデバイス統合時代に照準を当てているので、Facebookは特に意識していない。田中氏のその言葉にうそはないだろう。

 とはいえ、目指すところが似通っているのであれば、何か戦術的に違いが必要だ。「あえて違いを言うのなら機能性だけではなく娯楽性を持たせることでしょうか」と田中氏は言う。

 例えば位置情報サービスの中でもfoursquareが人気なのは、お気に入りのカフェに足しげく通いチェックインすれば、その店の「メイヤー」になれるというゲーム性があるからだ。

 こうしたゲーム性をあらゆる機能に盛り込むことで、利用者を拡大していくことができる。こうしたゲーム性は普遍的なものであり、世界のマスのユーザーに受け入れられる要因になると田中氏は考えているようだ。

 「今はそうしたゲーム性を取り入れたコミュニケーション機能があまりないので、一括してソーシャルゲームという呼ばれ方をしていますが、本当はゲームではないんです」。グリーがこれからどのようなコミュニケーションサービスを投入してくるのか。非常に楽しみだ。

理解できない5年後の形

 GREEの直近の形は想像可能だ。フィーチャーフォンで培ったノウハウをスマートフォンに展開し、そこでゲームだけにとらわれない各種コミュニケーション機能を追加していく。その際の特長は、機能重視よりゲーム感覚重視という点。

 しかしその先の姿がどうも見えてこない。田中氏は、自分のビジョンを隠しているわけでもなさそうだった。一生懸命説明してくれようとするのだが、わたしが理解できないのだ。

 田中氏はグリーを「モバイルの会社でもSNSの会社でもない。長期的には製品、サービスにこだわらない」と言う。ではどのような会社なのか。会社のスローガンは「インターネットで世界を変えていく会社」という。わたしがキョトンとした顔をして聞いているので、田中氏はこう追加してくれた。「Appleだって今のようにケータイの会社、音楽配信の会社になるって、10年前に想像できた人はいなかったんじゃないかと思いますよ」。

 「モバイルを核にあらゆる機器がつながって、しかも人々は今以上にコミュニケーションに熱心になるんです。そういう中で、必要とされるコミュニケーションのサービスを提供するんです」

 言ってることは分かるような、分からないような・・・。

 「形になって身の周りで普及しないと理解できないものだと思いますよ。Twitterが流行って身の周りの人が使うようになるまでTwitterって何がおもしろいのかわからなかったでしょ」となぐさめてくれた。

 確かにそうなのかもしれない。

実名であるべきか、SNSは1つであるべきか

 Facebookは実名主義を押し進めている。みんなが実名を使うことでインターネットはより安全になる。FacebookのCEOのMark Zuckerberg氏はそう主張する。またSNSは1つに収れんされると同氏は考えている。

 田中氏は、実名でも匿名でも関係ないと考えている。またSNSは1つに収れんされないだろうとも考えている。Zuckerberg氏とは、意見が異なるわけだ。どちらもすばらしいビジョナリーであるにも関わらず、どうして意見が分かれるのだろうか。ずっと不思議に思っていた。

 今回田中氏と徹底的に議論してみて、なぜ田中氏とZuckerberg氏の意見が異なるのかよく理解できた。

 二人の意見が異なるのは、二人が見ているタイムスパンが違うからである。

 Zuckerberg氏は、これからFacebookを覇者として始まるソーシャルの時代の中での話をしている。Facebookは今、実名でリアルな人間関係のコミュニケーションを通じて発生する新しい価値を創造する仕組みを提供しようとしているわけだ。これまでのインターネットにはなかった新しい価値が、実名をベースにしたネットワークを構築することで生まれつつある。なので実名にこだわるわけだ。これからのソーシャルの時代は、この新しい価値をベースにさまざまなサービスが登場する時代になるわけだ。(関連記事:ネット上の価格競争に巻き込まれない「リアル」「クローズド」なウェブ【湯川】 : TechWave

 匿名よりも実名が優れているという主張ではない。実名のネットワークがこれまでになかった新しい価値を生む、という主張だ。

 一方で、田中氏はソーシャルの次の時代に向けて進み始めている。だから実名でも匿名でもどちらでもいいわけだ。実名が匿名を駆逐するのではなく、匿名の時代が長く続いたあとに、実名ならではの価値を生む仕組みが登場しただけのこと。今後何年間かの間に実名の価値が出尽くしたあとは、再び実名、匿名が関係なくなる、ということなのだと思う。

蛇足:オレはこう思う

これから始まるFacebookの時代にどう戦うか。それも重要な課題だと思う。しかしその先の時代に向けて挑戦するベンチャー企業が日本からぜひ登場してもらいたいものだと思う。「モバイルを核にあらゆる機器が1つにつながり、しかも人々はよりコミュニケーションに積極的になる」ー。田中氏のこの5年後のビジョンは間違いなく現実のものになるだろう。そして田中氏の言うように、非常にエキサイティングな時代になるのだと思う。TechWaveでは、そうしたソーシャルの次の時代を狙うベンチャーや起業家、開発者を支援していきたいと思う。

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