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株式会社ループス・コミュニケーションズ代表取締役
斉藤 徹
国内三大SNSサービスの、2010年10-12月期の四半期決算発表が出揃った。
今回記事より、従来のmixi、GREE、モバゲータウンにプラスして、ソーシャルプラットフォームへの積極展開をはじめたサイバーエージェントのAmeba事業を対象として追加し、その業績やサービスの比較を分析してゆきたい。
なお,この分析レポートは,各社が投資家向けに公表している最新の決算報告,および広告代理店・クライアント向けに発行している媒体資料を主要な情報ソースとしている。また、今回から、ネットレイティングス社NetViewおよびビデオリサーチインタラクティブ社Mobile Media Mesurementによる視聴データ調査を導入、さらに関係者のヒアリングもあわせ、多面的な考察を試みた。
当記事においては,それらの客観的な数値に基づき,できる限り公平な視点で、各社の業績やサービスを比較することを心がけている。
■ 各社の最新四半期(2010年10-12月期)、全社業績比較
まず、各社の最新四半期決算資料に基づき、企業としての財務分析からはじめたい。
【2010年10-12月期 全社売上および利益の比較チャート】
この中で「前期比」とは2010年7-9月期との比較、また「利益率」は営業利益率を示している。四 半期業績で比較すると、売上面ではDeNAとサイバーエージェント、利益面ではDeNAとGREEが群を抜いている。また前四半期比で見ると、いままで低迷が続いていたmixiが最も高い成長率を示す結果となった。裏返すと、今まで驚異的急成長を続けていたモバゲーやGREEがスローダウンし、業界全体が通常の成長期に入りつつあることをあらわしている。
■ 各社の最新四半期、SNS関連事業の売上比較
その中で、SNS関連事業のみを抽出し、その売上高を比較したのが次のグラフだ。
【2010年10-12月期 SNS事業売上の比較チャート】
SNS関連事業の売上は各社とも堅調に前四半期の業績を上回った。対前四半期比で見ると、Amebaピグ、Amebaモバイルが好調なサイバーエージェントの急成長が目立つ。特に課金売上はわずか3ヶ月で147%と大きくのばしている。なお、サイバーエージェントは自社製ソーシャルゲームを他社プラットフォームに多数(12月末 現在で37タイトル)提供し、ゲームデベロッパーとしての存在感も強めている。今回はAmeba事業のみを対象としたため売上数値に含めていないが、その四半期売上は1,591(百万円)にも達しており、ソーシャルゲーム分野のダークホースとして注目されそうだ。
続いて好調だったのがmixiだ。課金売上面ではサイバーエージェント「星空バータウン」がヒット、さらに広告売上面でもPCアプリ面の広告新商品があたったため、四半期で117%の伸びとなった。あわせて、mixiは前述サイバーエージェントとソーシャルアプリ開発会社グレンジを共同設立、さらに提携を深めつつあり、今後の動向が注目される。
なお、Zynga、Playfishなど海外大手デベロッパーも、mixiを重点プラットフォームと位置づけゲーム展開を開始しているが、当初想定より利用者数が伸びず苦戦しており、マネタイズにまでは至っていない。
■ 各サービスの会員数とペーシビュー数の推移
では、続いて各サービスの会員数(登録会員数)とペーシビュー数に関して、2010年の推移をグラフ化してみたい。
【2010年10-12月期 会員数およびページビュー推移比較チャート】
会員数は各サービスとも堅調に伸ばしている。ここにきてモバゲーが急伸したのは、Yahoo!モバゲー会員の約200万人を含めているため。一方、ペーシビューにおける伸びが顕著なのは、サードパーティ・ゲーム獲得で熾烈な競争を繰り広げているモバゲーとGREEだ。
なお、2010年8月からモバゲーはページビューを非公開としている。そのため、当記事では、ビデオリサーチインタラクティブ社の提供するDocomo多機 能携帯の視聴データ(Mobile Media Mesurement for I-mode)をベースに独自予測した数値をプロットした。参考まで、同視聴データの最新統計サマリーは次のとおりだ。
【2010年12月 Docomo多機能携帯ベースの視聴データ分析】
この表は、携帯アクセスの約50%(mixi57%、GREE49%、モバゲー49%、Ameba未発表)を占めるDocomo多機能携帯からの最新視聴データだ。これによると、一人当たりの平均視聴ページ数や滞在時間にはサービスごとに大きな開きがあり、このスティッキネスが各社の売上に直結しているであろうことが推測で きる。
言い換えると、プラットフォーム力というより、ゲームコンテンツ力の差と言って良いだろう。特に最近、モバゲーとGREEのゲー ムコンテンツ獲得競争はさらに激しさを増しており、すでにモバゲーは約900タイトル(うち150タイトルはYahoo!モバゲー)、GREEは約500 タイトルと、サードパーティ・ゲーム数の拡大が続いている。
最近の傾向としては、本格的なゲームメーカーの台頭が注目される。モバゲーで言えば「ガンダムロワイヤル」(バンダイナムコゲームスとDeNA提携)や「100万人の信長の野望」(コーエーテクモゲームスとDeNA提携)、 GREEで言えば「ドラゴンコレクション」(コナミデジタルエンタテインメント)、「100万人の三国志」(コーエーテクモゲームス)が、それぞれサードパーティ・ゲームでトップクラスとなっており、ゲームメーカーによる定番ブランドの強さを物語っている。
なお、内製ゲームとサードパーティ・ゲームの売上比率は未公開だが、業界ヒアリングを通じた筆者予測では、グロス(ゲーム売上全体に対して)に対しての内製ゲームの割合で、モバゲーは40-50%程度、GREEは70-80%程度と推定している。参考まで、mixiは100%サードパーティ、逆にAmebaは100%内製ゲームであるのが特徴だ。
さらにネットレイティングス社NetViewによる、PCの最新視聴データも掲載しておきたい。分析対象としては、ゲーム系を中心に、mixi、Yahoo!モバゲー、Amebaビグ、ハンゲームをピックアップした。
【2010年12月 PCベースの視聴データ分析】
PCベースではmixiがリーチ率で圧倒していることがわかるが、後発のYahoo!モバゲーも200万人を超え、善戦している。これら4社サービスのページビューを時系列で見ると次のようになる。
【2010年8-12月 PCベースのページビュー推移】
国内PCゲーム業界における台風の目となったYahoo!モバゲーだが、10月を境にページビューは下降気味である様子が伺える。Yahoo!モバゲーの収益状況については、DeNA社、 Yahoo社とも公開していないが、それぞれの四半期決算から推定する限り、収益で大きな貢献をしている様が見受けられず、マネタイズで苦戦しているようだ。要因としては、ソーシャルゲームを志向するPCライトユーザーに支払い習慣がなく、心理的取引コスト(お金を支払いことに対する抵抗感)が高いためと 予想される。
■ 各サービスのARPU比較
さらに,各社のマネタイズ特性を探るために,会員あたりの月売上高(以下、ARPU: Average Revenue per Userと省略)を比較をしてみたい。
【2010年10-12月期 広告ARPU、課金ARPUの比較チャート】
この表は,各サービスが会員一人あたり月にどのくらいの売上をあげているかを示している。例えばmixiでは、1会員につき、広告で54円/月(広告ARPU)、会員課金で11円/月(会員ARPU)、合計65円/月(総ARPU)の売上を上げたということを意味している。
広告ARPUで強いmixiとAmebaは、PCベースがしっかりしていることがあげられるだろう。中でもmixiは、F1層(20-34才女性)が多く、媒体価値が高いと見られている。ただし、広告ARPUの差異は金額差で30円/月と小さい。それに対して課金ARPUではモバゲーはmixiの約30倍、金額差で312円/月をつけている。これは内製ゲームを持つか否か、そしてそのクオリティに起因するもので、この差が業績を左右するドライバーになっていることがわかる。
【2010年3-12月 ARPU推移】
時系列でARPU推移を見てみよう。今期にARPUを伸ばしたのは、GREEとAmebaだ。それに対して、この1年間でARPUを急拡大させたモバゲーはわずかだがダウンに転じた。この主たる原因は、Yahoo!モバゲー会員からのマネタイズが未成熟な点があげられるだろう。
■ 各サービスの会員属性の比較
参考まで,4サービスの会員属性(性別、年齢別属性)を比較しておきたい。
【2010年10-12月期 各サービス会員属性の比較チャート】
携帯とPCでは会員属性に大きな差異がある。この会員属性比較は、主戦場である携帯サービスのみを対象とした。従来は「10代のモバゲー、20代のmixi、30代のGREE」という印象が強かったが、テレビ広告効果によってGREEとモバゲーの年齢属性は近づき、ついに今期は逆転。モバゲーの方が高年齢化したようだ。性別比率では、mixiのみ、女性が男性を上回っているが、この傾向は長期的に続いているものだ。
■ 世界のソーシャルゲームは、スマートフォンへ向かう
最後に、変化の激しいソーシャルゲーム分野について、世界的な流れも踏まえた上で、各社の現状と今後をまとめておきたい。まず、ソーシャルゲーム業界を4階層で俯瞰すると次のようになる。
三角形が階層をあらわし、その左側には海外市場、右側には国内市場の主要プレイヤーの一部を掲載した。さらにこの図を分解し、最下層のハードウェアを横軸に、それ以外の3階層を縦軸に配置、主要プレイヤーとその収益規模をあらわしたのが下記のチャートだ。
国内4サービスにとって最大の脅威は、現主戦場である多機能携帯電話が成熟化し、今後は徐々にシェアが低下すると予測されていること。多機能携帯にかわり、最重要ゲーム端末になるのはスマートフォン、中でもiPhoneとAndroidだ。
【世界のハードウェア出荷予測推移】
このような急激な外部環境の変化を前に、各社ともスマートフォン対応を加速している。下記の表は、国内の主要なソーシャルゲーム・プラットフォーマーの対応状況をまとめたものだ。
【各社のマルチ・プラットフォーム化対応状況】
プラットフォーマーとして、多様なハードウェア進出に最も素早く対応したのはモバゲーだったが、それをGREEが急追。ついにはAndroidアプリ(Androidサードパーティアプリは2月中に登場予定)やスマートフォンWebなど、全プラットフォーム対応はGREEが先んじる結果となった。この2社は全方位作戦をとっているのに対して、mixiのスマートフォン展開は、アプリではなくWebにターゲットを絞っているようだ。
いずれにせよ、ガラパゴス化していた多機能ケータイと異なり,PCおよびスマートフォンはワールドワイドな争いになる。しかもPCではFacebook,スマートフォン(iPhone)ではAppleという、市場ルールをコントロールできる覇者的存在がいるため,プラットフォーマーとしての参入障壁は相当高い。
またここで注意したいのは、mixiとFacebookを除く4社は、それぞれプラットフォーマーとは別にゲーム・デベロッパーとしての顔を持っている点だ。上記表ではあくまでプラットフォーマーとしての対応状況をまとめたものであり、ゲーム・デベロッパーとしての進出状況は次のようになる。
【ソーシャルゲーム・デベロッパーとしてのスマートフォン対応状況】
ソーシャルゲーム・デベロッパーとしては、マルチプラットフォーム志向のDeNA、サイバーエージェント、ハンゲーム。それに対して自社プラットフォームにこだわるGREEに二極化している構図が見て取れる。
■ 国内外のソーシャルゲームに関する市場予測
最後に、国内外のソーシャルゲームに関する市場動向をまとめておきたい。
1. 国内携帯市場は成熟へ向かう
- 国内携帯向けソーシャルゲーム市場規模は、2010年1002億円、2011年1544億円、中期1800億円(MUMSS予測、2010年11月29日時点、モバイルプラットフォーム・ユーザーに限定)
- 超成長期は一段落、各サービスは堅実な成長期から成熟期に移行する
- スマートフォン比率が上がると、海外ゲームとの競合が激化すると予想する
2. 国内PC市場は未開拓、ただしマネタイズに課題あり
- 米国はPC中心で、2010年のソーシャルゲーム市場規模は約750億円
- 国内PC利用者数は米国の30%。したがって国内PC向けソーシャルゲームには、200-300億円程度の潜在市場あり
- mixiとYahooモバゲーの一騎打ち。いずれも携帯に比べ、マネタイズに苦戦している
- 国内大手ゲームメーカーが定番ブランドで台頭。ゲームデベロッパーの淘汰がはじまる
3. スマートフォン市場はボーダーレス。巨大市場だが、超激戦区
- 海外携帯(スマートフォン)市場は、最大の目玉だが、超激戦区となる可能性が大
- 短期的にはネイティブ・アプリ、長期的にはHTML5によるウェブが主流となる
- デベロッパーとしては、Zynga、モバゲー、GREE、既存ゲームメーカー等が大激戦となる
- プラットフォーマーとしては、
アプリ: iPhoneはApple、AndroidはGoogle/Amazonが強い
ウェブ: 完全なホワイトスペースで、中長期的に最激戦区 - 国内プラットフォーマーでは、モバゲーが先行するもGREEが急追。両者が激しく先陣争いを繰り広げている
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【国内外SNS関連】
・ Facebookの損益状況がリーク。2010年売上高は20億ドル、純利益4〜5億ドル (2011/1)
・ 「国内外、ソーシャルゲームの市場動向」のスライドを公開します (2011/1)
・ 米国ソーシャルゲーム市場規模、2011年は10億ドル超へ (2011/1)
・ mixi, Twitter, Facebook 2010年12月最新ニールセン調査 〜 Facebook堅調に300万人超、ページビューも大幅増 (2011/1)
・ 【2010年11月版】直近決算発表に基づくmixi、GREE、モバゲーの業績比較 (2010/11)
・ アジアのソーシャルメディアが熱い。中国,韓国,インドの最新トレンドは? (2010/7)
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著者プロフィール:斉藤 徹 (さいとう とおる)
株式会社ループス・コミュニケーションズ代表取締役
2005年が創業。国内での企業向けSNS構築分野でトップシェアです。
(ミック経済研究所,アイティーアール社 2008年調査にて)
現在は,企業コミュニティを単体で捉えるのではなく,多様なソーシャルメディアと有機的に結びつけ「クチコミ動線」を設計・構築・運用するコンサルティング・ファームとしての色合いを強めています。
書籍・コラム・ブログは個人活動ですが,ビジョンとノウハウは,ループス社員一同で共有しています。創業テーマである Socialmedia Dynamics を見つめながら,ソーシャルメディアやクラウドソーシングの分野で高い専門性を磨き続けたいと日々励んでいます。(といっても全く堅い人間ではないです。 特に夜は柔らか過ぎと定評です)
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