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「みんなが、自分の得意で誰かの役に立ち、自らも学び、いきいきと「自分のストーリー」を生きていく。そんな世の中の実現を目指したいんです」。
2012年7月30日、浅草の「花テックEXPO2012」のステージ開催された女性のための夢コンテスト「Beautiful Dreamer」で、ウェルセルフ社のファウンダーの一人である谷口明依さんは、凛とした姿で言葉を綴った。
「お互いの生活をよくするために、生活に役立つものを交換し、感謝し合う・・・わたしたちは、そんな「商い」の原点を体験できる機会を提供します。一人ひとりが『自分のストーリー』を生きていく世の中をつくりたいんです」。
そう締めくくった谷口さんは、最多得票で優勝を果たした。「まったく予想してなかった」と彼女は言う。しかし、彼女らが立ち上げたウェルセルフ社初のサービス「ココナラ」が、多くの人に評価されることが証明された瞬間だった。
それぞれの想い
谷口さんは、医師家系ということもあり、薬科大大学院で分子細胞生物学専攻を修了後、長年製薬業界に身を置き、薬品開発やグローバルスタディ(国際共同治験)などを経験してきたいわばエリート路線を歩んでいた。そこを抜けてITスタートアップの世界に入るということは、収入面で言ってもリスクが高く不安定な状態になる。なぜ、起業という決断をしたのだろうか。
ウェルセルフというITスタートアップが生まれるきっかけとなったのは2010年11月29日のこと。友人とのつながりで、共同創業メンバーである南章行さん、新明智さん、谷口明依さんの3人が六本木のBeatlesバーで出会ったのが全ての始まりとなる。
南章行氏は銀行やファンドなどを経て、2009年に英国オックスフォード大学経営大学院に進学。MBAホルダーといえば、投資銀行やコンサルティング会社に行くようなイメージだが、彼の通っていたMBAは、社会貢献やNPOについての試みが盛んで、卒業後も「みなさんが選ぶ仕事を選択してください」と実際にNPO等に行く人が多いのだという。
実際、南氏はNPOに関与するようになり、イギリスの若者の自立を支援する「Blast Beat」を日本で立ち上げている。ファウンダーの一人 新明氏と出会ったのもNPO関係だった。
南氏は「一人一人の力を活用したい」という考え方を持っていると谷口さんは語る「みんな、人を助けることが好きなんだと思う」。
一方の谷口さんは「医療の世界には大きな利権や規制があり、医療は進むのに、病気になってる人が増えていたりする現実がありました。例えば、衛生への知識がない、薬を持っていてもそれを 正しく使う知識がなく、自分の健康を守る意識が低いといった問題がありました。知識を持っている人にちょっとしたアドバイスをもらえれば改善できるのに、それができてませんでした」と語る。
世界は違うけれど共通の課題を持っていたファウンダーの3人が対面した時、それぞれ人生における次のステップを考えていた。うち2人は次の会社への内定が決まっているようなその時、2011年3月11日に東日本大震災が発生。その惨状と支援の渦の中「今しかできないことがしたい」という考えにスイッチが入ったという。
個人の力を活用したい
そうして誕生したウェルセルが始めに考えたのはヘルスケアのビジネス。CEO 南氏は2011年6月に企業買収ファンドのアドバンテッジパートナーズを退社。谷口さんも2011年7月に会社を退職し、ウェルセルフチームとして翌8月からリサーチを開始する。
「健康に気をつかう人のためのレシピサイトをやりたいと思い、患者さんや栄養士さんとかにヒアリングをしていきました。なかなかそういうサービスもサイトもないし、病院内でやれることには制約もある。友達の相談に乗るように、専門知識を持った人の能力を借りる形で、薬剤師や栄養士、介護アドバイス、心理カウンセラーなどにミニマムな相談を受けてもらうことはできないか。個人の専門能力を活かし、適切な情報を届けるようなコミュニティはできないか。そんな思いから「ココナラ」が生まれたんです」(谷口さん)
結局、もう一つサービスのアイディアが生まれるものの、ヘルスケアのビジネスは難しいと判断した3人は、検索では決して出てこない、自分の状況やTPOにあわせた情報や考え方を一緒に考えてくれるサービスをつくる決意をする。
知識やスキルのマーケット
ココナラは、知識・スキルのマーケットプレイス(記事参照)としてスタート。
「ココナラは、ウェブは時間や場所の制約を無くし、個人の力で何かをはじめるコストを下げることが出来るツールだと思っています。よくある1プライスのマーケットとはコンセプトもコミュニティの雰囲気も。ココナラは、まさに「誰かの役に立ちたい」「好きを仕事にしたい」「将来の夢のために経験を積みたい」という方が気軽に最初の一歩を踏み出せるようするものにしたいと考えています。
例えば、元引きこもりがひきこもりのお子さんを持つ方の相談にのりますというサービスが実際にありますし、悩んでいる時は特別な人ではなく先に同じ悩みを持った人の話が聞きたかったりする。自分で当たり前だと思っているものが他の誰かの特別だったり価値があったりするんです。
また、誰かに教えたりすることはそのまま自分の学びになる。また、500円という価格があることで聞く方も、答える方も一段真剣になり、非公開の場所で普段日常では出来ないつながりを持つことができます。
そんな風にココナラを通じ誰かの役に立つことで、自分自身が学べたり、気づかなかった価値を再発見したり、また知らなかった他の人の中の価値を発見したりすることができるんです。みんなの得意を交換しあって世の中をハッピーにしたい。
それは私個人の夢もあるんです。
大変だけど、もっともっと多くの人にココナラを届けたい」(谷口さん)
谷口さんは、誰にだって「その人なりの生き方がある」という。女性の立場でも、医師や、どんな立場であっても、少し工夫したらみんな自分らしく生きられるという状況はある。それを見つけるきっかけは、他人の中にある自分の価値を見い出すことなのかもしれない。
【関連URL】
・誰かのために自分を活かす、ここならできるサービス「ココナラ」 【増田 @maskin】
http://techwave.jp/archives/51757200.html
・ココナラ – あなたの得意でハッピーが広がるワンコインマーケット
http://coconala.com//
・ウェルセルフ | WelSelf Inc.
http://www.welself.com/company.html
サービスを考える時、よく人はメリットという言葉を使う。「安い」「儲かる」「楽になる」等誰かが享受できるメリットを見つけて、それを事業の核として展開していくのだが、ココナラで関心をするのは「利用者が自分の価値を見つけられるように」と「その価値を求める人に広く提供」という2つの考えを持ち、コンセプトをそれを実現する施策を徹底的に吟味しているところだ。メンバー全員、それぞれの世界のプロだったわけで、その知見がチームとして活かされるという稀有なケースのように思える。個人的には「各人が持つ小さな価値にスポットライトを照てる」というコンセプトにとても共感している。
夢を叶える技術者。8才でプログラマ、12才で起業。18才でライター。道具としてIT/ネットを追求し、日米のIT/ネットをあれこれ見つつ、生み伝えることを生業として今ここに。1990年代はソフト/ハード開発&マーケティング→週刊アスキーなど多数のIT関連媒体で雑誌ライターとして疾走後、シリコンバレーで証券情報サービスベンチャーの起業に参画。帰国後、ネットエイジ等で複数のスタートアップに関与。関心空間、@cosme、ニフティやソニーなどのブログ&SNS国内展開に広く関与。坂本龍一氏などが参加するプロジェクトのブログ立ち上げなどを主導。 Rick Smolanの24hours in CyberSpaceの数少ない日本人被写体として現MITメディアラボ所長 伊藤穣一氏らと出演。活動タグは創出・スタートアップ・マーケティング・音楽・表現・ミディアム・子ども・グローカル・共感 (現在、書籍「共感資本主義」執筆中)。書籍情報・ 詳しいプロフィールはこちら