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田中翔太
(@edy_choco_edy)
どうも、ご無沙汰しております。@edy_choco_edyです。(編注:前回の記事は4月23日)
先日(2011年9月8日)、GREEの時価総額がDeNAを抜いたことが話題になりました。正確には2009年にGREEのほうが上位だったことがあるため「抜き返した」ということになります。(2011年9月12日には再びDeNAが逆転しましたが、僅差です)。
http://jp.techcrunch.com/archives/jp20110908gree-dena-marketcap/
時価総額の話題ひとつとっても大きく取り上げられるこの2社。その競争がSNS、ソーシャルゲーム業界、さらにコンソールゲーム業界に与えている影響は、賛否両論あれど非常に大きく、今後ますます目が離せないものになると言えるでしょう。
現在、この2社を語る上で欠かすことが出来ないのが「スマートフォン対応」と「海外展開」です。フィーチャーフォン(いわゆるガラケー)で圧倒的な勢いを誇る2社ですが、ユーザー・メーカーのスマートフォン移行に伴い、戦場を移してもなお、その勢いが保てるかが注目されています。そしてスマートフォンの普及に伴い、国別の細々とした端末仕様から解放され、一挙に世界中にサービスを提供できる環境が整いつつあります。この時勢に、2社はどう対応していくのか。これはweb事業に携わる人であれば、非常に興味深いものだと思います。
今回はDeNA、GREEの、特に海外展開に焦点を当てて、両社の戦略についてまとめてみたいと思います。なお、今回は両社のプレスリリース、IR資料を一次情報として表を作成し、それを補う形でweb上の記事を引用しております。(どちらかというと、表がメインで、記事はおまけ、参照用のつもりでした)。
進出の区分として横軸に「サービス」(SNSなどサービスの直接展開)、「ビジネス拠点」(現地事業者との協業、進出準備のための子会社など)、「開発拠点」(ゲーム開発、システム開発のための拠点や子会社、提携など)、「プラットフォーム」(仕様共通化によるゲーム相互提供など)、「キャリア」(現地の通信キャリアとの提携。プリインストール、マーケット露出など)、「メーカー」(端末へのプリインストールなど)、「広告分野」(広告事業者との提携。アドネットワーク事業など)、縦軸に国・地域として「日本」「アジア」「北米」「欧州」、「その他」を置き、表の意味合いを解説しつつ、記事としてまとめていきたいと思います。
0.日本におけるDeNA&GREEの規模感について
――国内での実力は拮抗、次の成長路線確立を急ぐ両社――
まず前提知識として両社の規模感についてですが、直近の業績では
“2011年の4月から6月ではグリーは売上210億9,300万円で営業利益は97億8,900万円。一方のDeNAは売上346億4,900万円、営業利益は158億900万円”
と、いずれも非常に高い利益を誇っており、過去の業績と合わせても相当にキャッシュリッチな財務体質になっています。日本国内でこれだけの業績をあげているからこそ、積極的な海外展開に乗り出せる、と言えるでしょう。なお、国内における会員数は2010年期末でDeNA(mobage)が2971万人、GREEが2641万人と発表されています。
ほか、詳細な業績、会員数、プラットフォームの規模については、以下の記事が非常に詳しいです。
http://blogs.itmedia.co.jp/saito/2011/08/20118mixigreemo-dab3.html
※株式会社ループス・コミュニケーションズの斉藤氏による人気記事。4社の業績が非常に分かりやすくまとめられています。
http://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/da044121ee851bc115c8a48c1181c5fe/page/1/
※東洋経済による2社の比較記事。業績に加え、2社の差異、その理由が分かりやすく取り上げられています。
“ソーシャルゲームに限った収益力を見ると、売上高はディー・エヌ・エーが292億円、グリーが183億円”
“収益の基盤となっているソーシャルゲームの会員数は、6月末でディー・エヌ・エーがグリーを330万人リードする。ただ、その差は1割程度にとどまっており、会員獲得で激しい接戦を繰り広げていると言っていいだろう。”
※2010年期末でDeNA 2971万人、GREE 2641万人。また、広告宣伝費だけでもDeNAは約50億円、GREEも約40億円を投じていることが分かります。
両社とも日本国内での実力は拮抗しており、今後はスマートフォン対応や海外展開など、新たな成長路線をはっきりと確立していくことが急務になっている、と言えそうです。
1.サービスにおける海外展開
――“mobage”で行くDeNA、“OpenFeint”で攻めるGREE――
まず、最初にサービスの海外展開についてまとめてみます。この点で、両社の姿勢には大きな違いがあります。海外展開時にブランドをどうするか、という点です。
DeNAは自社ブランド「mobage」の世界展開を早くから表明し、実際に日本でのサービス名称「モバゲータウン」を「mobage」に変更、同時にグローバル版「mobage」を英語圏6カ国サービス開始、中国でも「mobage China」という位置づけで「夢宝谷」(発音:モンバオグー)をサービス開始しました。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1107/27/news075.html
“米子会社のngmocoが、英語圏6カ国向けにAndroidアプリをリリース。世界のゲームデベロッパーが開発した23タイトルを楽しめる。さらに約100タイトルが開発中で、順次投入していく。”
※6カ国はアメリカ、カナダ、イギリス、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド。
http://dena.jp/press/2011/07/mobageandroid.php
※内製タイトル「忍者ロワイヤル」「アクアコレクション」の中国版などを展開
なお、DeNAの米子会社であるngmocoは2010年10月にDeNAが買収したスマートフォンゲーム開発会社で、ゲーム開発のほか自社ゲームのユーザーを中心したプラットフォームPlus+を運営していた経験があります。
http://dena.jp/press/2010/10/ngmocono1.php
“2010年9月末現在、登録ユーザ数は1,200万人以上、他社開発を含む提供ゲーム数は119タイトルとなっています。”
このように、DeNAは日本、中国、それ以外(グローバル)という別々のネットワークを構築しつつ、ブランドとしては“mobage”で統一してサービス提供を行っている訳です。
GREEの場合、2011年4月に買収したOpenFeint社によるグローバルプラットフォームが海外展開における鍵になっています。GREEは国内ブランド「GREE」を国外に展開する、というよりも、OpenFeintのネットワークや既存プラットフォーマーとの提携による展開に積極的です。OpenFeintはiOSやandroidアプリに「組み込む」ことで機能するものなので、iOSやandroidアプリが展開する国・地域ならば、どこでもサービスが展開出来ると言えます。
http://d.hatena.ne.jp/edy_choco_edy/20110422/1303447054
※OpenFeintの概要についてはこちらをどうぞ。
“「スマートフォン向けゲームにコミュニティ機能を追加できるソーシャルゲームプラットフォーム」”
“Openfeintは「GREE」や「Facebook」といったSNS自体というよりも「開発者がアプリにソーシャルな要素を加えるための追加機能のセット」と考える方が理解しやすいかもしれません。もともと独立したゲームアプリに、Openfeint機能を「組み込む」ことで、そのゲームアプリのスコアを他のユーザーと競ったり、海外ゲームによくある「実績」を比べたりすることが出来る、というイメージ”
http://eir.eol.co.jp/EIR/View.aspx?template=ir_material&sid=8926&code=3632(PDF)
“スマートフォン向けソーシャルゲームプラットフォームとして北米を中心に多くのユーザーを有するOpenFeint社の買収により国際展開を加速”
(スライド番号3)
“ユーザー数7,500万、ゲーム数5,000、デベロッパー数19,000以上を有する世界最大級のスマートフォン向けソーシャルゲームプラットフォームを運営”
(OpenFeint社概要 スライド番号4)
こちらのIR資料を見る限りでは、海外での展開についてはOpenFeintを積極的に活用していく姿勢のようです。スライド番号4の説明にもある通りOpenFeintは買収当時ですでに7500万人の登録ユーザーがおり、組み込み型で導入しやすい「OpenFeint」は海外の中小デベロッパーの間でもよく知られていました。今後、「GREE」というブランドを国外でも展開するか否かは分かりませんが、当面グローバル展開においてはOpenFeintブランドを活用し展開を進めていくことになりそうです。
http://jp.techcrunch.com/archives/jp20110422-gree-openfeint/
“またブランドについては、DeNAはngmoco買収後に同社のplus+ Networkをmobageブランドに変えているが、GREEはいまのところOpenFeintブランドを継承していくようで、その後はどうなるかも未定のようだ。”
なお、2011年8月の段階でOpenFeintのユーザー数は1億人を越えており、ユーザー数の増加は順調なようです。
http://www.gree.co.jp/news/press/2011/0804_02.html
“「OpenFeint」は、毎秒2.8人の勢いで米国・欧州・中国を中心にユーザー数を伸ばし、2011年8月に1億700万ユーザーを達成しました。”
一方で、OpenFeintはスコアやゲームの達成状況を共有する組み込み型のアプリで、ソーシャルゲームプラットフォームとしての最適化、収益化(仮想通貨の流通、仮想アイテムの販売)などが課題とされています。この膨大なユーザー数を収益に繋げていく仕組みをつくることが、GREE買収におけるシナジーとしても大きく期待されている点です。
http://japan.cnet.com/news/business/35005951/
“そこでグリーは今後、各ゲームとの機能連携にとどまっていたOpenFeintに、プレイヤープロファイル機能やゲームフィード機能などのコミュニケーション要素を追加することで、ソーシャルゲームプラットフォームへの転換を図る。これにより、パートナーへの送客やエンゲージメントを強化する狙いだ。”
このように、自社サービス「mobage」の世界展開を狙うのDeNAと「OpenFeint」買収により一気にiOS、Androidにおけるソーシャルゲームプラットフォームの地位を狙うGREEという風に見ることが出来ます。両社の課題は、まずDeNA「mobage」の場合はほぼ0に近いその知名度の向上と普及、ユーザー獲得に成功し、自社の成功モデルをそのまま輸出できるか、GREE「OpenFeint」の場合はOpenFeintのネットワークを確固たるものに出来るか、それをGREEのノウハウによって大きな収益に結びつけることが出来るか、というところに落ち着きそうです。
なお余談になりますが、2009年の段階でDeNAもOpenFeint社(旧Aurora Feint社)と資本業務提携を行っており、GREE買収時にも20%の株式を保有していました。
http://jp.techcrunch.com/archives/jp20110422-gree-openfeint/
“ご存知のとおりOpenFeintはDeNAが出資をしている(出資比率は18.3パーセント)ことでも知られる。GREEによるOpenFeintの買収額は1億400万ドル(およそ85.7億円)なので、およそ15.7億円をDeNAが受け取ることになる。”
“…… 一方で、今回GREEがOpenFeintを買収したことで、なぜDeNAは一部出資をしていたOpenFeintを買収せずにngmocoを買収したのか、OpenFeintを買収しなかったのかという疑問が湧いてくる。ある噂によれば、DeNA代表取締役の南場智子氏はOpenFeintよりもngmocoのマネージメントスタイルが気に入っていたという話もある。”
この辺りは両社の戦略の違いを分ける岐路として記憶されることになりそうです。
2.ビジネス拠点における海外展開
――OpenFeintを擁すGREEの積極展開――
DeNA、GREEはともにソーシャルゲームに注力することが自他共に明白で、そのような海外展開を考える際に重要なのがアクセス経路(どうやって提供するのか)、コンテンツ(何を提供するのか)、ユーザー(誰に提供するのか)、という3つになります。それぞれ、通信事業者(キャリア)や端末メーカーとの提携、その国・地域にあったコンテンツを開発できる事業者の買収、提携、その国・地域ですでに一定のユーザー数を獲得しているプラットフォームとの提携、などが策としてあるわけですが、両社はこうした積極的な買収・提携をスムースに実行するため、各国に拠点を設立しています。
「DeNA/GREEがどこどこに進出」というニュースはサービスの海外展開と同視されがちですが、両社の戦略を考える上では、その目的に注視する方が、その後の展開が予想しやすいでしょう。例えば、DeNAは韓国ソウルへの子会社設立を発表しましたがプレスリリースでも「韓国におけるソーシャルゲームデベロッパーとの協業、開発サポート他」が事業内容として挙げられています。これは韓国市場への展開とともに、またはそれ以上に、現地のゲームデベロッパーとの関係構築を目している、と考えられます。
http://dena.jp/press/2011/06/dena-seoul-mobage.php
ビジネス拠点については表の通り、両社ともに北米・アジアが手厚く、特に米国・中国・韓国・シンガポールはいずれも拠点設立済、または設立を表明していることが分かります。(なお、一部は設立予定のものもあり、本格的な稼働には至っていない考えるべき拠点もあります。プレスリリースの設立時期を参照ください)。
GREEは以前からアジア、欧州に駐在員事務所の設立を表明、北米、アジアに拠点を展開していましたが、2011年9月に一気に5カ国(韓国、シンガポール、イギリス、オランダ、ブラジル)への子会社設立を発表しました。
http://www.gree.co.jp/news/press/2011/0901_02.html
韓国については通信事業者SK telecomとの提携(5.キャリア提携にて後述)もあり、今後市場として積極的に展開していく姿勢が伺えます。シンガポールについてはDeNAも「DeNA Asia」を設立し東南アジア、南アジアにおける統括拠点とすることを発表していますから、両社ともに重要な拠点となりそうです。東南アジア地域は人口が多く、有望なソーシャルゲーム開発会社も多いことから、両社とも今後はアジア圏でのコンテンツ開発事業者との提携が進んでいくのではないでしょうか?
なお、GREEは東南アジアを中心としたSNS mig33と提携しており、mig33の運営拠点がシンガポールにあることもシンガポール拠点の意味づけとして注目すべきポイントだと思います。
http://dena.jp/press/2011/08/dena-22.php
http://www.mig33.com/
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1104/13/news082.html
“Project Gothは東南アジア、インド、南アフリカなどを中心に4700万以上のユーザーを抱える”
イギリスについては、GREEは以前からロンドンへの駐在員事務所開設を設立を表明しており、シンガポールと同じく欧州での戦略拠点という意味合いが強そうです。
http://www.gree.co.jp/news/press/2011/0323.html
※2011年3月発表。北京、シンガポール、ロンドンにて駐在員登記を進める、という内容。
オランダはもともとゲーム産業が盛んなこともあり、有力デベロッパーの開拓では期待される地域です。DeNAが同国のスマートフォン向けゲーム開発会社Rough Cookieを買収した、というニュースもありました。
http://www.nfia-japan.com/reports.html?id=96
“オランダにおけるゲーム制作に対する機運はここ数年で爆発的に高まっており、オランダ政府も産業の育成を強力にバックアップしている。オランダ政府は2,000万ユーロ(22億円)に上る研究開発費をゲーム分野の教育機関や研究所に割り当てている。”
※なお、同様に政府がゲーム産業を積極的に支援していることではカナダも有名です。
そして2012年2月開設を予定されているのが南米(ブラジル)の拠点です。もともとGREEはOpenFeint経由で全世界にユーザーがいることから、幅広く拠点をもつことはOpenFeint事業展開に有利という事情もあります。しかし、それ以上にGREEは世界各国の有力なプラットフォーマーとの提携に積極的で、中国ではTencent、東南アジアではmig33という風に国・地域のトッププラットフォーマーとの提携を重視しています。このことから、南米地域でも同様の提携を模索しているのではないか、と考えることも出来そうです。
http://mt-rock.blogspot.com/2011/05/sns.html
“ブラジルでは、インターネットユーザーのSNS利用率が8割以上と高いことが特徴として挙げられます。”
“SNS利用者数は、3000万人程度*8であり、人口ベースで考えると15%程度しかありません。”
※成長市場におけるソーシャルゲーム事業が大変分かりやすくまとまっていて勉強になります。
なお、GREEはmig33との提携など、新興国市場に強い興味をもっていることもあり、今後のビジネス拠点の開設をひとつの目安として捉えることが同社の戦略を考える上でも面白いと思います。(例えば、中東、アフリカ地域など)。同社は長期的な視野でのビジネス拠点の展開が早く、今後も国・地域の有力プレイヤーとの提携に積極的だ、と言えそうです。
3.開発拠点での海外展開
――開発拠点買収に積極的なDeNAの動き――
開発拠点とは、先ほどのビジネス拠点とは別に、主にゲームなどの開発の役割を担う子会社、拠点と考えられるものを挙げました。
近年、世界的なゲーム企業である米国Electronic Arts(EA)やFacebookの有力ソーシャルゲーム開発会社米国Zyngaなど海外の有力プレイヤーもモバイルソーシャルゲームの開発力強化に乗り出し、世界的にも買収・提携を通じた「開発者囲い込み」「開発者の奪い合い」が起きています。こうした中で、ソーシャルゲームでの世界展開を目指すDeNA、GREE両社にとって海外向けコンテンツの開発拠点確保、デベロッパーとの提携は重要になってくるでしょう。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0911/10/news091.html
“買収は2億7500万ドルの現金と2500万ドル相当の株式で行う。またEAはPlayfishが2011年末までに一定の業績を達成したら、最高で1億ドルを支払う。”
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20110713/362350/
“EAはこの買収にあたり、約6億5000万ドルの現金と1億ドル相当の株式を支払うほか、2013年12月までの業績が一定の目標に達した場合、最大5億5000万ドルの上乗せ額(アーンアウト)を支払う”
このように、ソーシャルゲーム・カジュアルゲーム開発会社は大手ゲーム会社に巨額で買収されており、中小・ベンチャー企業を含めて、今後ますます勢力争いに伴う買収・提携が激化すると考えられます。こうした買収は「人気タイトル」「ユーザー数」の確保を目的としたもの、「開発チーム」「開発者」確保を目的としたもの、またはその企業のもつコネクション確保を目的としたものなど、一口に買収としっても、性質が異なる場合があります。ソーシャルゲーム界隈での「買収」については、そうした背景を考えると、理解が深まります。(例えば、Zyngaは「開発チーム」「開発者」を目的とした買収が非常に多いです。そうした買収の後は買収された企業のサービス、ゲームが終了することも度々です)。
表を見ると分かるとおり、この開発拠点の展開ではDeNAが大変積極的です。GREEの海外戦略がプラットフォーム重視だとすれば、DeNAは開発会社の買収など、グループ内での開発力強化に大きな力を入れていることが読み取れます。
DeNAの海外展開というと、まずngmoco買収が挙がります。これは総額342億円という金額の報道やngmocoの北米での知名度もあり、大きな話題になりました。
http://blog.ngmoco.com/
http://jp.techcrunch.com/archives/20101012dena-acquires-ngmoco/
同社のアニュアルレポートによればngmoco買収の目的は大きく4点で「ゲームコミュニティ」(Plus+)、「ソーシャルゲーム」(We ruleなど)、「マルチデバイスのゲームエンジン」(ngCore)、「マネジメントチーム」(Neil Youngほか)であると列記されています。
http://eir.eol.co.jp/DocumentTemp/20110912_052317316_b4gsns3ulcxmuu45myqpzla3_0.pdf(PDF)
なお、ngmocoは世界的なゲーム企業であるEA出身のNeil Young氏がモバイルゲームアプリの可能性を信じ、独立して立ち上げたもので、そのゲーム開発力については定評がありました。
http://www.appbank.net/2008/10/20/iphone-news/568.php
“NgmocoはCEOもEA避難民のニール・ヤング(Neil Young)である(老齢のロックスターとは別人)。YoungはEAのヒットタイトル『Lord of the Rings』、『The Sims 2』、リリース間近の『Spore』の開発を総括してきた人で、EAは6月に辞めた。これからは自分独自のゲーム開発と、他のデベロッパーたちが作るゲームの資本調達・プロデュースの両方を手がけたいとしている”
このほか、DeNAはGameView Studio(アメリカ、パキスタン)、Rough Cookie(オランダ)、スウェーデン、ベトナムなどに開発拠点を持っています。
http://eir.eol.co.jp/EIR/View.aspx?cat=tdnet&sid=828512(PDF)
http://www.gamebusiness.jp/article.php?id=3257
同社買収はngmoco買収のおよそ一ヶ月前で、ngmocoのインパクトから見落とされがちですが、代表作「Tap fish2」は1000万ダウンロードを越え、米国のiOSセールスランキングでも根強く上位に位置しています。また同社はパキスタンにも大きな開発チームをもっている、とされています。
http://jp.techcrunch.com/archives/20110518ngmoco-acquires-mobile-games-developer-and-longtime-partner-rough-cookie/
“Rought Cookieの買収はngmocoのゲーム開発力を大きく強化することになるだろう。同時にngmocoの、というより親会社のDeNAのモバイル版ソーシャルネットワーク・ゲームモバゲーの世界戦略の一環として、初のヨーロッパ・オフィスのオープンという意義もある。 Rough CookieはiOS、Android、Windows 7向けゲームを開発してきた。”
“Rough Cookieとngmocoの提携の歴史は長い。たとえばngmocoのTouch Petsシリーズもその提携の産物だ。”
もともとRough Cookieはngmocoの提携先であり、有力なデベロッパーでした。近年はZyngaなど、海外の有力プレイヤーによる買収も増えてきたことから、より緊密な関係を固めるための買収だと考えると理解しやすそうです。
http://dena.jp/press/2011/08/dena-sweden2.php
“米国Electronic Artsで基本プレイ無料・アイテム課金型オンラインゲーム部門の統括をしていたBen Cousins(ベン・カズンズ)が代表を務め、スウェーデンのゲーム開発者が中心となって、ゲーム開発を推進します。”
“開発ゲームのジャンルをファーストパーソン・シューティングゲームにしぼり、ngmocoの開発したゲームエンジン「ngCore」を用い、コンソールゲームと同等のクオリティを実現していきます。”
このリリースで「mobageがFPS?」と訝しがった方も多いようです。FPSはもともと海外で人気のジャンルで、日本でのソーシャルゲーム展開とはかなり毛色が違うためです。この謎は、DeNA Swedenの代表者にあります。同子会社の社長Ben Cousinsは、ngmocoのNeil Youngと同じくEA出身で、特に世界的に有名なタイトル「Battlefield Play4Free, Battlefield Heroes, Lord of Ultima, Battleforg」のスタジオを率いていた人物でもあります。既存のソーシャルゲームとはまた異なるコンソールゲーマー向けの「Play for free」モデルの確立に尽力した人物でもあり、コンソールゲーマー層の取り込みや新しい課金モデルなどの実現に大きな期待が持たれます。
なお、この記事を書いていた2011年9月11日の段階で、もっともタイムリーなのが以下の買収。
http://dena.jp/press/2011/09/post-96.php
“Punch Vietnamは、買収完了後、主にDeNAのスマートフォン向けアプリ版自社製ソーシャルゲームの受託開発を行う拠点となります。”
http://www.startup-dating.com/2011/09/punch-entertainment-vietnam/
“PEV について多くのことはわからないが、PEV が開発した主なゲームはここにリストアップされている。その一つ、Egoはソーシャルネットワークをベースにしたモバイルゲームへの取り組みで、2008年最も革新的なゲームに贈られる賞を受賞した。今回の買収もいたって当然のように思える。”
主に受託開発の拠点ということですから、DeNA内製タイトルの強化策の一環であり、今後内製スマートフォンタイトルの開発スピードが速まることが期待されそうです。
なお、GREEは表だってゲーム開発会社の買収などは行っていませんが中国を本拠とするゲーム開発会社の株式取得を行うなど、世界的なコンテンツ確保、開発のための布石を打ち始めています。またシステム開発などでは北米のOpenFeint社が、またゲームエンジンという点ではUnity社との技術提携など、急所は押さえた戦略を進めている、と言えそうです。
http://www.gree.co.jp/news/press/2011/0808_02.html
“グリーでは、2011年7月に、スマートフォン向けソーシャルゲームをはじめとする良質なコンテンツの開発力強化を目的に、中国(上海、北京など)に拠点を置き、グラフィックやゲームを受託開発する(※1)アルチゼンゲームスと業務提携しましたが、今回、更なる事業上の関係構築・強化を目的に株式を取得します。”
http://www.gree.co.jp/news/press/2011/0301_01.html
DeNAとGREEの姿勢の違いは両社の“内製タイトル”の重要性の認識から来ている、と考えられます。両社は他社のソーシャルゲームを受け入れるプラットフォーマーとしての顔を持ちつつ、自らゲームを開発し展開する、というゲーム開発会社としての顔も併せてもっています。日本でもmobageならば「怪盗ロワイヤル」、GREEならば「探検ドリランド」という風に看板タイトルをもち、そこから大きな収益をあげています。ソーシャルゲーム事業の特性上、単にプログラムを開発して終わり、ではなく、その後の「運営」(日常的なPDCAから定期的なアップデート、イベント開催、リニューアル……)の妙味が売上に大きな影響を与えてきますから、スピード感をもって、そのノウハウを余すことなく伝えられる「自社の開発拠点」の存在は非常に重要だと言えます。
日本での成功事例を再現するならば、mobageという独自プラットフォームを率いるDeNAとしては、まず世界的に成功する内製タイトルを開発することが重要でしょう。内製タイトルのヒットは、直接プラットフォームの拡大に繋がります。(例えばZyngaはヒット作でユーザーを獲得し、いくつかの内製ゲーム内でユーザーを囲い込み、循環させることで次々とヒット作を生み出しています)。同時に、内製タイトルのヒットは収益に直結するため、グローバルでの収益を確実に確保する意味合いもあるでしょう。
一方、GREEは今のところはプラットフォーマーとしての側面が強く見えます。ただ、ソーシャルゲームのノウハウを培うことは、プラットフォーマーとしてリーダーシップをとっていく上で非常に重要です。日本でもDeNA、GREEは「もっとも成功したソーシャルゲーム開発会社」であったからこそ、そのノウハウ提供でもって、多くのコンソールゲーム開発会社などを巻き込み(多くの場合は成功を約束して)、プラットフォーマーとしての地位を確立してきた経緯があるからです。OpenFeintの巨大なネットワーク(特に課金部分で自由度が高いAndroid版)と強力な収益力をもつ内製タイトルが結びつけば、GREEにとって非常に大きな収穫となることは間違いありません。GREEは北米向けの内製タイトル開発を表明していますから、この開発力強化という面でも何らかの進展があるのではないか、と言えそうです。
4.プラットフォーム提携による海外進出
――中国市場、新興国市場への窓口となるGREE――
プラットフォーム提携とは、既存の有力プラットフォーマーと提携することで、仕様を共通化し相互にゲームを提供しやすくする、といったものを指します。他にはDeNAがYahoo Japanと行った「Yahoo! mobage」の共同運営などの例があります。
表を見て分かるとおり、GREEはこの分野での世界展開に非常に注力してきました。GREEの各種広報においても、GREEの国内会員数およそ2700万人ではなく、グループ全体の会員数1億3千万人(GREE約2700万人+OpenFeint1億人強)、あるいは提携先をあわせた8億人強(GREEグループ1億3千万人、Tencent6.5億人、mig33 約5000万人)のプラットフォーム、という表現が積極的に使われています。
まず、GREEにとってこの分野で最も大きな提携はなんといっても中国Tencent社との提携です。同社サービスのユーザー数は6.5億人を越え、中国における様々なインターネットサービスの雄として海外からも注目されている企業です。
http://d.hatena.ne.jp/edy_choco_edy/20110126/1296051806
※Tencent社の概要を始めSNS3社の中国展開について簡単にまとめてあります。
http://www.gree.co.jp/news/press/2011/0126.html
“GREEパートナー様は「GREE」に提供するスマートフォン向けソーシャルアプリを、一から開発することなく容易に「QQ Wireless Game Center」上に提供することが可能です。また、「Tencent Wireless Services Division」で人気のソーシャルゲームも、「GREE Platform for smartphone」を通じて「GREE」のユーザーに提供される予定です。”
GREEとTencent社の提携は端的にいうと仕様共通化とアプリの相互提供、「仕様共通化することで、スマホ向けアプリをお互いのプラットフォームに簡単に出せるようにしよう」というものです。これにより、GREEにゲームを出すなら、Tencentにも出せる、というメリットを打ち出すことが出来ます。
2011年の8月にはGREEを窓口として、日本のゲーム会社のアプリがTencentに提供された、というリリースがありました。
http://www.gree.co.jp/news/press/2011/0805.html
なお、この提携のビジネススキームとしては以下の記事が詳しいです。
http://news.livedoor.com/article/detail/5764534/
“収益配分は示された図によればグロスの25%。約40%がキャリア課金手数料として徴収されるという中国特有の事情もあり、他のプラットフォームと比べると低い水準ですが、それでも中国国内のデベロッパーよりも有利な料率が提供されることになります。Tencentが約20%、グリーが約5%という取り分になるようです。入金はグリーを通じて行われるとのこと。リードタイムは2ヶ月以内になると話していました。”
これによればGREEの取り分は5%ということですが、この当たりは今後の中国市場のユーザー1人当たりの課金額の伸びやTencentに提供されるアプリ数によるところが大きいでしょう。むしろ、Tencentとの提携では直接的な売上以上に、中国市場で最も強いプレイヤーと組んでいる、ということがプラットフォームにゲームを提供するパートナー各社へのアピールとして強い意味をもっていると思います。
この点、DeNAはモバイル向けSNS「天下網」の買収により、ほぼ独自で中国展開を進めていますから、どのような違いが出てくるか興味深いところです。
なお、GREEはTencentとの提携とは別に、OpenFeintの提携先という形で中国のThe9とも関係をもっています。これはGREE買収前のOpenFeint社にThe9社が投資、提携していたことに由来するものです。
http://www.gree.co.jp/news/press/2011/0427.html
GREEのプラットフォーム提携のもうひとつの核がmig33との仕様共通化です。mig33は日本では馴染みがありませんが、アジア、中東、アフリカなど幅広い地域のユーザーを擁するSNSです。GREEは同サービスの運営会社Project Goth社と2011年4月に提携をしています。
http://eir.eol.co.jp/EIR/View.aspx?cat=tdnet&sid=877412(PDF)
“東南アジア、インドおよび南アフリカを始めとする新興国を中心に、4,700 万以上のユーザーを保有するモバイル向け SNS「mig33」を運営する Project Goth, Inc. (本社:米国デラウェア州、CEO:Steven Goh、以下「Project Goth」)と業務提携を行います”
もともと2010年11月にGREEはProject Goth社の第三者割当増資を引き受けており、その資本提携の上での業務提携、という形になっています。
http://jp.techcrunch.com/archives/jp20101101gree-invest-in-singapore-based-mobile-sns-mig33/
“ほかの出資者は明らかにされていないが、グリーはこの投資ラウンドでmig33に対して数億円の投資を行い、同社の数パーセントのシェアを持つこととなる。”
“mig33はおもにはフィーチャーフォン向けの携帯SNSで、インドネシアやインド、南アフリカなど東南アジア、南アジア、アフリカ、中東、東欧などにユーザーが広がっている”
GREEとmig33の提携も「スマートフォンにおける仕様共通化」が中心ということで、先に述べたTencentと同じような意味合い(ゲームの相互提供)を持つものと考えられます。市場的に、端末対応などで時間はかかるかもしれませんが、いずれTencentと同じような展開が進むものと考えられます。
http://asiajin.com/blog/2011/07/31/mig33-launches-developer-program-many-asian-gaming-apps-to-come-out-in-japan/
mig33がユーザーを抱えている東南アジア、南アジアは成長著しい地域であり、アフリカも将来的には見過ごせないマーケットとなるでしょうから、将来的な可能性に投資した、と言えそうです。短期的な業績には表れないかもしれませんが、GREEが世界一のプラットフォームを目指す上ではmig33との提携は東南アジア、南アジア・アフリカ地域でのサービス展開の経験という、重要な意味をもつでしょう。
このようにGREEは現地の有力なプラットフォームとの提携により、中国市場、新興国市場への「窓口」としての役割を担いつつあります。もともと中国や東南アジア市場は戦略上重要な地域とはいえ、現地のパートナーとの関係構築などが難しい地域でもありました。これをGREEが一手に引き受け、仕様共通化という大事業をやり遂げたとすれば、これが日本企業のみならず海外のゲームデベロッパーと提携を進める上で大きな武器になるのではないでしょうか。もちろん、Tencentやmig33の側から提供されるゲームの存在も見逃せません。相互にゲームを供給しあう、ということは、中国・アジアのデベロッパーにとっても、日本参入の大きなチャンスになるわけです。これは日本国内の中小デベロッパーにとってはライバルが増えることにも繋がります。プラットフォーム提携による実益(アプリ収益のレベニューシェア)の伸びと併せて今後の展開に注目したいところです。
5.キャリア提携からみる海外展開
――サービス普及における決めてとして――
もともと、両社のサービスにおけるキャリアの強さは日本においても顕著でした。GREEはKDDIとの提携を通じてサービスを拡大させましたし、両社ともにキャリア決済による手軽さの恩恵を受けています。DeNAも先日NTT docomoとの提携を発表し、ドコモのスマートフォン端末へのmobageプリインストール等が決まっています。(たとえばフィーチャーフォンでi mode公式サイトにアクセスすると「ソーシャルゲーム」というリンクがあり、直接mobageに飛ぶようになっています)。
http://dena.jp/press/2011/04/dena-mobage-1.php
このように、有力な通信事業者との提携は、その国・地域におけるサービス普及に直結するわけです。
まず、GREEはOpenFeintを通じて米国の有力な通信事業者と提携を行っています。AT&Tとはゲームコミュニティプラットフォームにて協業、VerizonWireless社とは「V CAST」におけるOpenFeintゲームの紹介といった具合です。詳細はまだ公開されていませんが、具体的な成果が上がれば発表されるでしょう。
http://eir.eol.co.jp/EIR/View.aspx?template=ir_material&sid=8926&code=3632(PDF)
“北米の上位2キャリアであるVerizon社、AT&T社と提携し、広範囲のユーザーリーチを実現”
http://jp.techcrunch.com/archives/jp20110422-gree-openfeint/
“GREEもKDDIとの資本提携によって急速に成長していったこともあることから、こういった携帯電話キャリアとの提携もGREEにとっては魅力的に映ったようだ”
またGREEとしては韓国の最大手キャリア SK telecomとも提携しています。
http://www.gree.co.jp/news/press/2011/0808_01.html
“韓国モバイル市場に占めるそのシェアは50%を超え、ユーザー数は約2,600万人(2011年6月末現在)に上る、韓国最大の通信キャリアです。同社は2009年9月にサービスを開始した同国初のアプリケーション・ストアサービス「T store」を運営しています。”
こちら内容としてはキャリア公式のマーケットでの優先的な露出、ということなので、同マーケットにGREEコーナーができ、そこでソーシャルゲーム提供を行う、といったことが考えられます。
一方のDeNAは子会社ngmocoと米国AT&Tとの業務提携を発表しています。
http://dena.jp/press/2011/08/denangmocoattmobage.php
“今回の業務提携のもと、両社は、全米に広がるAT&TのAndroidユーザがより快適にグローバル版「Mobage」を楽しめるよう、今年中にAT&T提供のAndroid搭載スマートフォンにおいて、グローバル版「Mobage」の優先的な露出を図ります。”
“このたびの提携により、AT&T提供のAndroid搭載スマートフォンを利用するユーザーは、グローバル版「Mobage」上で展開されるゲームに簡単にアクセスができ、ゲームを通じて世界中の「Mobage」ユーザーとつながることが可能となります。”
これは、まだまだ知名度が低いグローバル版mobageの、米国における普及戦略の要となりそうです。こちらも今年(2011年)中には「優先的な露出」が始まるとのことなので、どのようなものになるか注目したいところです。
キャリア提携は海外における競争力の強化という点でもインパクトが大きいため、今後も両社による提携合戦が激化するでしょう。順当にいけば中国、欧州、GREEであれば南米なども可能性がありそうですが、交渉の難しさなどを含め、サプライズとなりそうなのも、このキャリア提携と言えそうです。
6.メーカー提携から見る海外展開
メーカー提携は、端末メーカーとの協業により、端末にサービスをプリインストールしたり、機能の一部として組み込んだり、という提携を指します。
日本では両社ともに富士通と提携し、端末へのプリインストールを発表しています。
http://dena.jp/press/2011/09/androidmobage99kddiregzaphoneis11t.php
http://www.gree.co.jp/news/press/2011/0804_01.html
DeNAはドコモと、GREEはKDDIと提携しているため、DeNAがKDDI端末に、GREEがドコモ端末にプリインストールすることは今回のようにメーカーと提携した場合です。この場合、理屈の上ではmobageもGREEもプリインストールされている、ということになるわけですが、まだ実機を確認していないので気になるところです。
ほか、GREEは富士通、日本エイサー製のタブレット端末へのプリインストールも発表しています。
~ 対応アプリが、富士通・日本エイサー製の端末にプリインストール ~
http://www.gree.co.jp/news/press/2011/0908.html
メーカー提携のうち、海外展開という点で大きいのはDeNAとサムスン電子の提携です。
「mobage」を提供~DeNAグループのグローバル展開を更に加速~
http://dena.jp/press/2010/12/denamobagedena.php
“サムスン電子との提携により、DeNAグループは、スマートフォン向けソーシャルゲームプラットフォーム「mobage」を、世界市場に向けて販売されるサムスン電子製Android搭載スマートフォンに中期的に展開し、グローバル展開を更に加速していきます。サムスン電子はこの取組みを全世界の自社製スマートフォンユーザへ全面的にプロモーションする予定です。”
http://dena.jp/press/2011/05/androidmobagegame-hub.php
この提携で、サムスン電子製のスマートフォンの一機能である「Game Hub」として、mobageが組み込まれる(プリインストールされる)ことになりました。サムスン電子の人気スマートフォン端末GalaxyⅡの海外版ではGame Hubを起動すると「Powered by mobage」の表示と共に「プレミアムゲーム」と「ソーシャルゲーム」のタブが表示され、前者はGameloft社などいくつかのゲームデベロッパーが、後者はmobage(ngmoco)がグローバル向けのソーシャルゲームを提供しているようです。日本版では、Game Hubはmobageそのものとして起動するようです。
http://k-tai.impress.co.jp/docs/event/mwc2011/20110217_427534.html
※海外版の写真付きレポ。
“DeNAのスマートフォン向けプラットフォーム「Mobage」が、サムスン電子の発表したAndroidスマートフォン「GALAXY S II」に採用されていることが分かった。同端末には「Game Hub」と呼ばれるゲーム機能が搭載されており、起動時に「Powered by Mobage」と表示される。”
http://www006.upp.so-net.ne.jp/china/daiary16-9.html
※日本版の写真付きの起動レポです。どのようにアクセス出来るのかが分かりやすく載っています。
Galaxy SⅡはサムスン電子の主力端末でもあり、この提携はmobageの新規ユーザー獲得、知名度アップなどに繋がるでしょう。今後、他端末へのプリインストールなども期待されます。
http://www.itmedia.co.jp/promobile/articles/1107/28/news024.html
一方で、サムスン電子はiPhoneでお馴染みのapple社との特許争訟を抱えており、一部地域では端末の販売差し止めなども起きているため、今後どのような展開になるかは注視する必要があります。
メーカーとの提携は端末プリインストールという強力な成果に繋がる反面、キャリア提携に比べると交渉相手がかなり多く存在します。交渉相手は多い割に、現在のスマートフォン市場はOS、メーカーともにiOS陣営(apple)、android陣営(Google他)、Windows Phone(MS)など強豪プレイヤーの覇権争いの中にあり、かなり複雑な情勢です。今後のシェア、それを左右する技術的なトレンドをどう読むか、というのもDeNA GREEにとっては非常に重要なポイントとなるでしょう。
7.広告分野における海外展開
DeNAとGREEはソーシャルゲーム事業での圧倒的な成功の印象が強いですが、一方でSNSでの広告事業にも力を入れてきました。
http://blogs.itmedia.co.jp/saito/2011/08/20118mixigreemo-dab3.html
上記の記事によれば2011年4-6月期の広告売上はDeNAが約15億円(前期比85%)、GREEが約27億円(前期比110%)になっており、GREEのほうが高くなっています。(同期間のソーシャルゲーム売上だとDeNAが約300億円、GREEが約180億円)。ソーシャルゲーム事業と比べると小さく見えますが、おなじく日本発のSNSサービスmixiの同期間の広告売上が約20億円、サイバーエージェントのAmeba事業の広告売上が約19億円(課金売上25億円)であることを考えると、広告事業が両社の好業績をしっかりと支えていることが分かります。また、この売上のほとんどがフィーチャーフォン向け広告事業であるとすれば、今後のユーザーのスマートフォン移行への対応は急務と言えそうです。
GREEは2011年1月に株式会社アトランティスの買収を発表、スマートフォン向けの広告事業を強化する方向で進んでいます。
http://jp.techcrunch.com/archives/jp-gree-acquaired-ad-exchange-service-company-atlantis/
“今回なぜGREEは同社の買収に踏み切ったのだろうか。そこにみえるのがやはりきたるべき「スマートフォン」時代への布石だ。リリースにもスマートフォン向け『GREE Platform』におけるトラフィック活性化やマーケティング力向上による事業の強化を図る」としている。”
http://www.gree.co.jp/news/press/2011/0118_01.html
“当社では従来より「GREE」を広告媒体としたモバイル広告枠の販売による広告メディア収入を得ておりますが、今後スマートフォンの普及、広告表現力や機能向上などにより、新たな広告市場の急成長が見込まれるため、当社としても(中略)アドネットワーク事業を通じてスマートフォンにおいても広告事業の拡大に努めてまいります。”
“※アドネットワーク…複数のメディアをネットワーク化して、クライアントの広告を配信するサービス。ネットワーク全体に広告を配信できるため短期間で大量のリーチが可能になるとともに、大量のトラフィックを扱うため、ユーザーの膨大な行動データが蓄積され、ターゲティング広告配信の精度が高まる利点があります。”
一方のDeNAもサイバーエージェントとの合弁会社「AmoAd」設立を発表、国内最大のアドネットワーク構築を目指す、としています。
http://dena.jp/press/2011/04/dena-20.php
“合弁会社では、スマートフォンアドネットワーク事業領域における国内最大のアドネットワーク構築を目指し、2011年12月までに月間広告配信数100億impを目標に事業展開を行ってまいります。”
敢えて一分野として表に掲載しましたが、両社ともに広告分野での海外展開は特に発表されていません。ただ、ユーザー数に応じた早期の収益化やスマートフォンでの普及を図る上ではひとつの選択肢として考える価値はあると思います。例えば、北米のモバイル広告の分野はGoogleのadmob買収(およそ750億円)、AppleのQuattro Wireless買収(およそ250億円)など巨額の買収が続いています。こうした動きを、自社のサービスを展開する国・地域で先行することが出来れば……、といった具合です。
他に提携・買収が考えられる分野としてはソーシャルゲーム事業においては欠かすことが出来ない手軽な課金・決済分野、でしょうか。個人的には海外での収益に直結する広告・決済分野での両社の動きに可能性を感じています。
8.考察
以上、7分野に渡ってDeNAとGREEの海外展開についてまとめてきました。最後に、両社の今後の動きについて直近の資料から考察してみたいと思います。
GREEの姿勢としては2011年8月5日の決算説明会での経営陣の発言が参考になります。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1105/09/news110.html
“GREEの田中良和社長は5月9日の決算説明会で、「今後GREEが5億、10億とユーザー数を増やしていく上で、GREEだけの力では足りない。必要があれば今後も(企業買収を)どんどん進めていく」と話し、積極的なM&Aなどを活用して海外事業とスマートフォン展開を強化していく方針を示した。”
http://japan.cnet.com/news/business/35005951/
“グリー取締役執行役員CFO国際事業本部長の青柳直樹氏によって、グリーのグローバル戦略が語られた。(中略)海外のソーシャルゲーム企業も著しい進歩を見せており、北米ではモバイルソーシャルゲーム企業の資金調達も活発化していることから、「あまり時間はない」と語る。”
このように、GREE経営陣として残り時間が少ないという認識で動いており、OpenFeintの機能拡充とあわせて、M&Aによる拡大も目しているのではないでしょうか。すでに世界最大規模のモバイルユーザーと接点をもつGREEならば、収益化に繋がる大きなコンテンツ(特にグローバルで成功するタイトル)獲得や有望な市場での広告分野の動きなどが考えられそうです。やはりなんといっても1.3億人を越えるユーザー獲得に成功した、という点はGREEにとって大きな武器であり、同時に、収益を上げることへの渇望に繋がるはずです。
短期的にどの市場を重視しているか、という切り口もあります。例えばDeNAは現在およそ1000億円の売上を2014年度以降には4000億円にすることを目指す、と発表しています。
http://jp.techcrunch.com/archives/jp-20110428-dena-2010-financial-statement/
“DeNAの目標は2014年度に営業利益2,000億円の会社になることだということだ。これを実現するために、2014年には4,000億から5,000億円の売上を目指すという。”
更に、その売上4000億円の内訳として、海外売上を半分の2000億円、内訳として欧米が60%、中国が20%、その他が20%としています。
http://eir.eol.co.jp/EIR/View.aspx?template=ir_material&sid=9049&code=2432(PDF)
※スライド20に図解あり。
この目標を達成するには、内製タイトルの成功、特にすでにユーザー1人あたりの課金額も日本に近しい水準である欧米での成功が必須となります。だからこそDeNAは開発拠点の拡大に注力しており、内製タイトルの量産体制構築を目指している、と言えるのではないでしょうか。この点から言えば、まずmobageプラットフォームのユーザー獲得、認知度向上のための提携、あるいはマーケティング施策を強化しつつ、開発力の強化は今まで通り続ける、と考えられそうです。この点、ngmocoが新COOにTV業界のベテランDrake Earl女史を迎え入れた点などは注目に値するニュースだと言えます。
http://venturebeat.com/2011/08/23/ngmoco-names-tv-veteran-as-chief-operating-officer/
“…Joanna Drake Earl, former chief strategy officer and chief operating officer at Al Gore’s media startup Current TV, as head of day-to-day operations at Ngmoco. Her job will include driving the launch of Mobage, which is Ngmoco’s global mobile entertainment network.”
以上、提携や買収に焦点を置き、DeNA&GREEの海外展開についてまとめてきました。最後に、懸念について触れたいと思います。やはりなんといってもこの急速な海外展開で本当に成果を上げられるかどうか、でしょう。
例えば、人材の問題です。
http://www.nikkan.co.jp/news/nkx0220110608bfac.html
“ディー・エヌ・エー(DeNA)は11年度採用数を前年度比2倍の200人以上にするほか、グリーも同2倍の500人以上を採用する。国内外のSNS市場は急拡大しているため、人材獲得で一段と事業を拡大する。”
“DeNAは10年度にエンジニアを中心に単体で100人以上を採用した。参加型のソーシャルゲーム市場が好調のため、連結社員数は3月末時点で1080人に到達。同「グリー」を運営するグリーは事業拡大とともに、10年度に約270人を採用し、3月末には単体で402人の社員が在籍する。”
このように、両社は急速に採用数を伸ばし、人材獲得に動いています。しかし、社内の重要なノウハウをもった人材は簡単には増えません。一線級の人材をどれだけ海外に派遣できるのか、といった点が問われるフェーズに入りつつあります。DeNAもGREEも「日本のソーシャルゲームで培ったノウハウ」を武器とする以上、そのノウハウを海外でも展開できるような人材をどう育てていくか、また、そういった人材を海外に派遣してもなお、日本の事業拡大、人材育成に影響がない体制をどう創っていくか、あるいは海外におけるマネジメント、人材育成を、どのように確立していくか、手腕が問われています。DeNAが取締役にngmocoのNeil Young氏を、GREEが執行役員にOpenFeintのJason Citron氏を加えたことは、両社の社内体制のこれからを占う上で、注目に値すると考えます。
http://gamebiz.jp/?p=10897
http://www.gamebusiness.jp/article.php?id=3638
“グリーの田中良和社長はJason氏について、グリー全体のグローバル戦略を進める中核となって活躍して欲しいと期待を寄せていました。”
Update 2011/09/15
OpenFeint創業者のJason Citron氏が同社CEOを退任する、という発表がありました。後任はGREEの青柳氏とのことです。執行役員人事とあわせ、GREEの海外戦略を占う上でも、今後の動きに注目です。
http://www.gamasutra.com/view/news/37248/OpenFeint_CEO_And_CoFounder_Jason_Citron_Resigns.php
ほか、当然のことながら国内外の競合他社の存在、そもそも日本のソーシャルゲームが海外でも成功するのか、という点など、懸念は多くあるのですが、それについてはまた別の機会にまとめてみたいと考えています。
以上、長々と述べてきましたが、それでも着実に両社の海外展開は進んでいます。両社に共通する「世界一のプラットフォーム構築」「世界に通用するサービスの提供」への熱意、本気さの表れが、世を賑わす経営陣の強気な発言や、日々TwitterのTLを賑わすプレスリリースなのだと思います。
ひとつ言えることは、もし両社が掲げるソーシャルゲームプラットフォームが実現すれば、間違いなく、そこにはソーシャルゲームに留まらないチャンスが生まれるでしょう。世界中のユーザーが、手元の端末から、いつでもフリーミアムのコンテンツにアクセス出来る環境が整う。そのプラットフォームは、当然に、ソーシャルゲーム特有の少額決済機能を備えるでしょう。仮想空間に、手軽な娯楽や達成感、承認欲求を求めてやってくるユーザーと、手軽な少額決済機能、そして大手ゲームパブリッシャーのみならず漫画、アニメ、映画などのコンテンツホルダーとの密接な関係。これらがそろってなお、ソーシャルゲームだけにこだわり続けるとは思いません。国内のソーシャルゲーム収益を、積極的に成長戦略のために投資してきた両社です。またそれぞれ、新たな成長産業への進出をもくろむでしょう。
DeNAとGREEは、本当に世界に通用するのか。もし通用したとすれば、その先にいったい何があるのか。それをリアルタイムで追うことができるのはちょっとした幸せだ、と思います。
他にも、両社はコンソールゲーム会社との提携、アニメ・漫画などの版権の獲得、自社コンテンツのマルチメディア展開など、興味深い動きが続いています。引き続き、両社の動きについて注視していきたいところです。
以上、DeNA&GREEの海外展開をまとめてみました。なにぶん、浅学な学生のまとめたものですので抜け漏れ、誤りなどがあるかもしれません。ご指摘いただければ嬉しいです。またリンク・引用させていただいた元記事の筆者の皆様に御礼申し上げます。引用についてはすべて出典を記しておりますが、問題ありましたらお手数ですがご連絡いただければ修正いたします。
以下に自分のtwitterアカウントを記載しますので、叱咤激励、ご助言ご指摘などお待ちしております。twitterアカウント:http://twitter.com/edy_choco_edy
長文乱筆、ご容赦を。最後までご覧いただき本当にありがとうございます。
都の西北にて国際ビジネス法を学びつつ、ソーシャルゲームのことばかり考えている大学生。
ソーシャルゲーム運営、新規タイトル企画を経て、最近は海外拠点での新規タイトル開発、社内でのノウハウ共有のために働いています。
twitterアカウントは@edy_choco_edy
早稲田大学法学部4年。浜辺陽一郎(国際ビジネス法)ゼミにて幹事長。企業法務、特に国際取引法、海外子会社の内部統制、コンプライアンスなどを専攻。
総合電機メーカー法務部、DeNAサマーインターン、リクルート(web領域)インターン、シリコンバレー訪問(twitter社、ngmoco:)社、Booyah社、SequoiaCapital 、500startups)訪問などを経て、ソーシャルゲームやwebサービスに目覚める。2012年卒DeNA内定者第1号。趣味は散歩。
最近の悩みは4月からの新居をどうするか。