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AOLがTechCrunchを買収 メディアの形はブログで決まり【湯川】

[読了時間:7分、「蛇足」含む]
 米AOLが米TechCrunchを買収することになった。サンフランシスコで開催中のイベントTechCrunch Disruptの壇上でAOLのTim Armstrong氏とTechCrunchのMichael Arrington氏、Heather Harde氏が合意書に署名した。(日本語版TechCrunchの記事:ウィー・ガットTechCrunch! ―AOL、TechCrunchを買収)

 AOLは、TechCrunch運営のMobileCrunch、CrunchGear、TechCrunchIT、GreenTech、TechCrunchTV、CrunchBaseなどの専門ブログに加え、TechCrunch Disruptなどのカンファレンス事業などの資産を傘下におさめることになる。買収金額は公表されていないが、Business InsiderによるとAOLの内部関係者は2500万ドルと話しており、CNBCは4000万ドルと報じているという。

 日本語版のTechCrunchは、DESIGN IT!, LLC.が米TechCrunchから翻訳権などのライセンスを取得し、運営している。なので、今回のAOLによる買収の直接的影響は受けないものと思われる。


 AOLは、インターネット接続事業、ポータル運営事業からスタートし一世を風靡したが、2001年のTime Warnerとの合併がうまく機能せず、2009年に再びTime Warnerから分かれて独立路線を歩んでいる。その後は新しいタイプのコンテンツベースのメディアを目指し、多数のフリーランスの記者と徹底したデータ解析をベースにした編集システムを使って無数のコンテンツを生成する一方で、有力ブログメディアの買収も進めている。engadgetなどを運営するWeblog社もAOLの傘下。(関連記事:コンテンツメディアの新しい形を模索する新生Aol : TechWave新生Aolいよいよ始動。新しいマスメディアの形を作れるか : TechWaveWashington Postの支局閉鎖の一方でAolがジャーナリスト募集 : TechWaveAOLにヤメ記者3000人 : TechWaveAolのコンテンツ作成型メディアのさらなる詳細=silicon Alley Insider : TechWaveだからヤフーも報道機関になるって言ったじゃない : TechWave

 今回の買収で、TechCrunchはAOL傘下の他のメディアとの連携でアクセスがさらに増える一方で、AOPの強力な広告部隊のおかげで広告収入も増加するものとみられている。Michael Arrington氏は買収の経緯を説明するエントリーの中で、ブログメディアの技術面の問題をすべてAOL側に対応してもらえること、AOLの今後の方向性が明確であることなどを、買収に応じた理由として挙げている。またTechCrunchのHeather Harde氏は企業買収の専門家。特にメディア関連企業の買収の経験が豊富なことから、AOLの経営に参画し、AOLの資金を使って関連ブログメディアの買収を進めるのではないかという憶測も早速流れている。

 だからヤフーも報道機関になるって言ったじゃない : TechWaveという記事の中に書いたメディアの変革期の移行シナリオ通りに進んでいるものと思われるので、その一部をここに再掲したい。

 米AOLもヤメ記者をどんどん雇用して、オリジナルニュースを作るメディア企業としての成長戦略を描いている。

 こうなるのは最初から分かっている。ちょっと考えても分かる。メディアの変革期の移行のパターンなんて、初めから読むのは簡単じゃないか。

 プロの記者以外の人たちがブログなどでどんどんコンテンツを作成し始めたので、需給バランスが供給過多に傾く。供給過多であれば、コンテンツの価格が低下する。なのでアグリゲーターであるポータルは、自らコンテンツを作る必要がない。これがメディア変革期の第1段階だ。「他人が作ったコンテンツに頼るビジネスモデルって将来的に危ういのでは」という人がいるが、それはその通り。ただしこれは過渡期のモデル。第1段階ではこのモデルが最も有効で、これでいいんだ。

 コンテンツの価格が下がれば、新聞社を始めとする高コスト体質の従来型コンテンツメーカーは立ち行かなくなる。経営困難に陥って買収されたり、倒産したりするところが出てくる。これが第2段階。アメリカでは今のところ、ここだ。

 こうなってくると最初に危惧されていたように良質のコンテンツの供給を受けることが難しくなる。そうなれば、ポータルだろうとタルタルソースだろうと、コンテンツビジネスをやるところは、自らコンテンツを作るようになる。ただし老舗企業がやっていた高コストの作り方ではなく、徹底してスリム化した体制で作るようになる。これが第3段階。米ヤフーやAOLはこの段階に差し掛かったわけだ。

 徹底してスリム化した体制とは、現状ではブログの形を取るのが最も有効。ネット上の情報流通は一方通行ではなく、コミュニケーションになっていくので、そういう意味でもブログが有効だ。

 この流れは日本にもくる。

蛇足:オレはこう思う
「湯川は『ジャーナリズムは不要だ』というが、これからもジャーナリズムは必要だし、メディア企業も必要だ」と批判されたことが過去に何度もあるが、ジャーナリズムが不要、メディア企業が不要だなどとは一度も言ったことがない。ただジャーナリズムはこれまでとは形を変えたものになるだろうし、メディア企業も大きくビジネスのあり方を変化させなければならないと思う。時代の変化に適応できない企業は潰れるしかない。厳しいことを言っているつもりはない。メディア業界以外では当たり前の資本主義のルールだ。「報道機関のことは最後には国が守ってくれる」と本気で信じている人が今だにいるが、同じように考えていた金融機関がどうなったか忘れたのだろうか。

 さて既存のメディア企業が自ら変化できないのであれば、新しいメディア企業が登場してくる。それが今起こっていることだ。AOLのやり方が正しいのかどうかは分からないが、新しいメディアのあり方を構築するために果敢に挑戦していることだけは評価したい。

 今回の買収を見ても、これからのメディアの基本形はブログで決まりなんだと思う。AOLは従来からあるオンラインメディア企業を買収するのではなく、TechCrunchのようなブログメディアを選んだ。なぜか。

 ブログメディアは、システム的に低コストで運営できるということもあるが、それ以上にスピードと双方向性がインターネットの特性に合っているからだと思う。これまでのメディアは、取材が終わったあとに記者が「事実」だと思うことを記事に書く。ブログメディアは、情報が出た時点で記事を書き、その後の双方向の議論の中でユーザー一人一人が自分なりの「事実」を形成していくものだ。これまでのメディアにとって記事は「終点」であるのに対し、ブログメディアにとって記事は「始点」に過ぎない。これがこれからのメディアの形なんだと思う。

 日本でそうした新しいブログメディアのあり方をこのTechWaveを使って試行錯誤していきたいと思う。

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