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草野隆史
(@zaakya)
当社は、2004年の創業以来、一貫して企業に大量データ分析のための支援を行うことをビジネスとしている。この起業は、今のビックデータ時代の到来を見越してのことではあったが、当初は中堅規模の企業をメインのターゲットとして想定をしていた。しかし、実際として、当社は現在各業種のトップ5に入るような大手企業を中心にビジネスを行っている。この事実は、人材も資金も豊富な大企業が、こと分析という分野については、必ずしもうまくやれていないことを意味する。なぜだろうか?
本稿では、私は企業への分析支援のサービスを提供する現場で考えた、企業が分析という機能をインストールする際につまづくポイントについて、私なりの仮説を紹介したいと思う。改まって書くまでもなく、もはや大量データは大企業だけのものではなくなっている。当然、競合との差別化のため、競争力の強化ポイントとして分析力の向上を図る会社は、今後、ベンチャーの中でも次々と生まれてくるだろう。そんな折に、少しでも参考となり、プロジェクト失敗のリスクが低減し、多くのすばらしい分析成果が日本に生まれることを願っている。
なお、「企業が行うべき」とタイトルをうったが、実際は、『マネージメント』に向けて書いている。彼らが「アナリティクス(分析)」という分野のIT投資について正しく認識し、適切な意思決定さえ行えば、物事は劇的に改善する。『現場』に関して言えば、キチンとデータに基づいて意思決定をして物事が悪くなることなんて、本来滅多にない。
1)分析の特徴を理解すること
データ分析に対する投資の効果(の出方)は、通常のIT投資と大きく異なる。多くのIT投資は、投資によって一定の改善効果が一気に出て、それ以上に改善が起こる事はない。しかし、分析のための投資は、データを蓄積する環境に投資をしたといって、その場で何かが改善するわけではない。
しかし、そのデータを正しく分析を行い、それに基づいて各種の施策を実施することで、次々と改善効果は出続ける。つまり、上手く分析して結果を活用できるかどうかで、得られる効果に非常に大きなバラつきがある投資である。
「データ分析」は経営のツールとして万能ではないが、役に立たないということはまず絶対にない。まったく効果がでないのなら、それは、導入の仕方がまずいという事になる。
2)パイロットプロジェクトを行い自社のデータの可能性を確認すること
多くの企業が、データの分析の経験がないままに、ベンダーの提案に基づいて各種ツールの導入を行っているが、料理をした事がない人が、鍋や包丁を買うようなもので、この方法で自社のビジネスにフィットしたツールを買うのはかなり難易度が高い。
できれば、様々な分析経験を有するアウトソーサーを使って、自社データで実施可能な分析と、それに基づく施策の効果を確認するためのPOC(プルーフ・オブ・コンセプト)のプロジェクトを実施して、一度、自社のデータの可能性を査定し、関係者で共有した方がよい。
これにより、最初の段階での適正な投資規模の算出や購入ツールを絞り込むことができるし、きっと、収集しているデータの不足や不備にも気づけるだろう。また、このプロセスを通じて、経営陣を含めた関係者の投資に対する効果の期待値を調整できるので、後で、マネージメントの過剰な期待に現場がつぶされるリスクも軽減できる。
3)分析のための十分な投資を行うこと
これまで、DWH(データ・ウェア・ハウス)などのデータを「溜める」環境にばかりコストをかけて、それらを「分析する」ためのコスト(分析ツールへの投資や、分析官の採用・教育の投資)が足りず、結果として成果をあげられていないケースを非常に多くみてきた。貧弱な分析ツールで、分析官が悪戦苦闘して、結果を出せず涙を飲んでいるのだ。
しかし、よく考えてほしいが、一番希少なのはデータから価値を創造する分析官だ。この日本で希少な職種の人材の採用には、今後、どんな会社も苦労するだろう。つまり、一人の分析官にどれだけ効率的に働いてもらうかが、非常に重要なのだ。
分析官の生産性に寄与するならば、少々高いツールでも、十分にペイをする。企業は、分析するためのコストをもっとかけるべきだ。なお、この投資には、分析官が犯してしまうだろう失敗のコストも含む。人間は失敗からしか学べない。あなたの会社の分析官に、失敗という投資をしてあげる寛容さが、将来の成功を生む。
4)ラインのビジネスを行っている部門に分析部署をおく
分析は、ビジネスのために行われるべきであり、分析のための分析を避けなくてはならない。当たり前に聞こえるだろうが、分析をどこの部署でやるかで、これは大きく変わる。多くの企業で、システム投資になると情報システム部が主体で活動するケースがあるが、これでは分析結果に基づく施策が行われにくいし、そもそもビジネスの現場からニーズと実際の分析テーマが乖離してしまうリスクも高まる。
分析は、必ず実行とセットで考慮され、(良くても悪くても)その結果がすぐに分析官にフィードバックされる環境で行われないといけない。その意味で、どこの部署に、分析のファンクションを持たせるかは非常に重要なのだ。施策の実施が可能なマーケティング系の部署に、技術系のメンバーを集めて取り組む事をお勧めする。
5)人材の確保・育成・保護
データ分析は、プログラミングと同様に高度な知的労働である。通常、プログラマーを異動させて、営業に回したりはしないだろう。同じように、優秀な分析官をジョブローテーションなどで、他の職務に着かせることはナンセンスだ。残念ながら、多くの大企業は、この失敗を犯してしまっている。
また、最初から分析官として十分な経験と能力を有した人間を採用するのは困難なので、各社にて育成の必要があると思うが、ある程度分析に関して素養がある人間に、ビジネスが分かっている人間をつけてセットで活動させると成長が早まる。
そして、それらの人材を些末な仕事から守ることも重要だ。分析が出来るようになったとなると、会社中から単純な集計作業の依頼が、それらの人材に集中することだろう。それはそれで重要な仕事だとは思うが、数少ない人材は、それに見合う大きな仕事に集中させてあげるべきだろう。そうしないと、燃え尽きるか転職をしてしまうリスクを高めてしまうことになる。
最後に、もし余裕があるならば、出た成果に応じてインセンティブを払うこと。分析好きは、そうでなくても、知的好奇心に突き動かされて、よい仕事をしてくれるとは思う。しかし、出すべき成果を明確にする意味でも、そんな制度があったら、より大きな対価を企業は得られるのではないかと思う。
以上、7年間、企業の分析支援を行ってきていて常々感じていた、細かい技術論以前の、組織としての意思決定レベルの問題として感じていた事をつらつらと書き連ねた。今後、データの増加と分析ニーズの拡大を受けて、新しい技術やツールは飛躍的に増加すると思うが、今のままでは、(データマイニングの誕生以来)過去20年間、日本においては、多くの企業に分析という業務が定着しなかった過去の轍を再び踏む可能性があると心配をしている。
今度こそ、非常に楽しく、ビジネスに貢献する分析という機能が、正しく企業にインストールされることを願っている。
データマイニング&最適化の専業ベンチャー、株式会社ブレインパッド(www.brainpad.co.jp)の代表をしています。あらゆる企業の分析力が向上すれば、日本経済力も復活することを信じて、様々な形でクライアント企業の分析を日夜支援中です。
「これからの時代は、大量データの分析力が鍵だ!」と信じている仲間(分析官からHadoopエンジニアまで)を全職種、絶賛募集中です。
Twitter: zaakya
(※編注:著者名の「隆」は環境依存文字。出ない環境では「隆」で代用して下さい。)