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2012年2月2-3日にシンガポールで開催されたStartupAsia。これに合わせ、シンガポールを初め東南アジアに進出し出した日本のベンチャー企業を中心に取材を行いました。この地域に対する認識・目標など企業としての考えに加え、アジアで生きる個人としての目線も含めて伺っています。全5回。
第4回目は、前回の記事で触れた、クロスコープ・シンガポールを3ヶ月で卒業したDeNA。同社はシンガポールで、アジアで何をする? 2012年1月29日に出来たばかりの新オフィスに、DeNA Asia Pacific Holdings代表の森徹也氏と事業開発ディレクター須山敏彦氏を訪ねました。
DeNAと働くことに憧れを持ってもらえるようなオフィスを
シンガポールの国家事業により開発が進む今最もホットなエリア、ワン・ノース地区。高等教育機関を中心に、官民・産学の連携による新事業の創造が期待されている。そのシンボルタワーとも言うべき「フュージョノポリス(Fusionopolis)」には、メディア開発省(MDA)といった政府機関のみならず、ITやメディア産業系の企業が多く入居している。DeNAもその1社だ。
同社のシンガポール進出の目的は元々Mobageをこの地域で展開させることだったが、それよりもこちらのデベロッパーとの関係構築が先決と判断、この地にオフィスを構えることにした。一方、中長期的には、日本のデータセンターのバックアップをこちらで行うアイディアも出ている。
新しいオフィスは非常に立派で斬新だ。当初はDeNAも周りのスタートアップと同じようなオフィスを検討していたが、ここへ進出してきた意味を考え、方針を改めた。プラットフォームの企業として、また、業界の有力企業として、現地の人が一緒に仕事をしたいと思ってくれるような存在でなければダメということに気が付いたという。
「普通のオフィスじゃダメだなと思って。ゲーム会社として、ある程度夢を感じさせるようなもの。一方で、政府のMDAが作ったゲームソリューションセンターが結構よく出来ている。それと比べて遜色のないものにしたかった。」
Games Solution Centre launched(2011年10月28日)
http://www.channelnewsasia.com/stories/singaporelocalnews/view/1162219/1/.html
「モバゲーをベトナムに持っていってよ」南場さんの一声がきっかけ
DeNAは東南アジアではベトナムに強力なパイプを持つ。その理由は、森さんの経歴と密接に関連する。前職は三菱UFJキャピタルで海外のテクノロジーベンチャーを中心とした投資を担当。その前は、サン・マイクロシステムズで携帯用JAVA、シリコングラフィックスでNINTENDO64とゲームのプラットフォームに関わる仕事を歴任してきた。そのキャリアのスタートはマッキンゼー。そこで南場さんと出会っている。
「マッキンゼー時代に元々南場さんと一緒に仕事してたんです。その頃から割と仲良くて、世界で二人だけ僕をニックネームで呼べる人がいて、それが嫁さんと南場さん。分からないですけど、マッキンゼー時代から「もりたこ」なんです(笑) 僕がDeNAに入った時、人事部の人が僕の本名を「もりたこ」と勘違いしてたくらい。」
「1年半くらい前なんですが、食事の時に『ベトナムが好きで。すげー面白いよ。』って言ったら、(南場さんが)『モバゲーをベトナムに持っていってよ』って。『えー?ゲーム?』とかいう話して。結果的にそれがきっかけでした。」
以下の提携・買収は森さんの手によるものだ。
DeNAとベトナムのネット最大手VNG、戦略的提携に合意
http://dena.jp/press/2011/11/denavng.php(2011年11月22日)
ベトナムのゲーム開発会社の買収について ~スマートフォン向けソーシャルゲーム開発で新拠点~
http://dena.jp/press/2011/09/post-96.php(2011年9月12日)
ベトナムの経済環境
森さんがベトナムにのめり込んだのは前職時代、ベトナムの証券バブルが崩壊した頃だ。これが単なるバブルが弾けただけのか、それとも経済の根本的な崩壊なのか見極めに行った森さんは、ベトナムのポテンシャルの高さに驚く。
「ベトナムには2008年の5月に入るんですけど、普通、インデックスが1/3とか1/4になったら経済は無茶苦茶になると思うじゃないですか。そういう予想を持って行ったけど、なんか皆んなニコニコしてるし、生活苦しそうじゃないし。何なんだこれはと、非常に不思議な思いをしました。マクロ経済指標とか、VNインデックスとか言うけど、結局実態のほうが重要じゃないですか。これは面白いと。」
1958年生まれの森さんにとって、これは「これは我々が来た道だ」と直感的に感じるものがある。ベトナムの人口が約9000万人、平均年齢は27歳。これは日本の1950-60年代の人口動態とほぼ同じになる。
ベトナム人とその気質
ベトナム人は開発能力に富むだけでなく、基本的なwork ethicsの質が高いと評判である。須山さんによると、彼らは開発が間に合わない時は土日も働くなど、諸外国に比べ仕事をやり遂げることに意識が高い。その理由を森さんが分析するに、
「ベトナムも儒教文化の伝統があって。儒教が凄いのは、組織を運営する力を与える思想なんですね。マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』と同じで、アジアで物事がこれだけ動く背景があるのは、儒教の思想、要は統治の思想なんです。」
ベトナム戦争の苦い経験からアメリカ資本がそれほど入り込んでいないことも、日本企業にとっては好条件である。ベトナムを高く評価しているのは、日本と旧宗主国でベトナムの力を知っているフランスだ。仏・ゲームロフト(gameloft)は、ホーチミンだけで1000人体制になっているという。
「ゲームロフトが大量に人を雇う。あそこでは、基本的にポーティング(編注:別プラットフォームやOSなどへの移植)とかが多いんだけど、当然それをしながら皆んな学んでいくわけですよ。中には、優秀な人は自分で作りたいと思うわけで、そういうのをVNGがどんどん引き抜いちゃう。」
この他にも、ベトナムは大学も大量にエンジニアを輩出し、(IT系の財閥)FPTは自分で高校や大学まで作るなどエコシステムが出来上がっている。ここも他の東南アジア諸国にはない優位点である。
ベトナム人開発者に「萌え」を理解してもらう
現在VNGは、同社が元々作ったゲームをローカライズし日本市場に送り込んでいる。これだけでは足りないため、須山さんが中心となり企画やゲーム設計などの指導を行なっている。その中で最もローカライズが困難なのは、デザイン・グラフィックの部分だという。その説明のため、StartupAsiaの壇上で森さんはフィギュアを用意。日本人ゲーマーに受ける要素として萌えを引き合いに出した。
「ゲームプレイや基本構造とかは頭で考えれば皆んな出来る。勉強すれば身につくんですけど、これってセンスの話じゃないですか。あの場で萌えの話をしたのは、(対談相手Penn-Olsonのファウンダー)Willsが萌えを知らなかったから、一番手っ取り早くあの人形を。」
東南アジアのソーシャルゲームスタートアップ企業におけるDeNAの見解 [Startup Asia Singapore]
http://www.startup-dating.com/2012/02/gaming-startups-in-southeast-asia/(2012年2月13日)
彼らに指示して「カワイイ」をデザインしてもらっても、やはり日本人の好みとは微妙な違いが出てしまう。「よく出来ているとは思うんですけど、ハマる要素がない」(須山)そうだ。ここが東南アジア製のゲームが日本市場に受け入れられる上での最大の壁となる。
しかし森さんの夢は大きい。「いつの日かMobage一番のデベロッパーになってくれたらなあと。彼らも成功したいと思っている。荒唐無稽に聞こえるかもしれないけど、彼らがベトナムでやってきたことを考えると、不可能とは言い切れない。彼ら何もないところから、ベトナムのインターネットを作っちゃったような人たちだから。」
写真家、広義の編集者。TechWave副編集長
その髪型から「オカッパ」と呼ばれています。
技術やビジネスよりも人に興味があります。サービスやプロダクトを作った人は、その動機や思いを聞かせて下さい。取材時は結構しっかりと写真を撮ります。
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