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改めて「スマホで世界をねらうために知っておきたい3つのこと」を読んでみた 【増田 @maskin】


[読了時間: 2分]

 フィーチャーフォン、つまりガラケーの時代は終わりスマートフォンの時代となりつつある。

 フィーチャーフォン時代、通信キャリアが中心となり、世界が注目する一大モバイルマーケットを構築した日本。スマホの時代への過渡期にあっても、世界はそのノウハウをどう活用するか注目され続けている。

 当然ながら引き続きブレークスルーを起こす企業も出てくるだろう。しかし、ガラケー時代と大きく違うこともある。初めから “世界を舞台” とすることを前提としてマーケットが構築されている点だ。海外のプレイヤーがライバルとなり、既得権益が通用しにくくなる。

 スマホの収益化プラットフォームで世界展開を果たすメタップス 代表取締役CEO佐藤航陽氏が2012年6月25日に出版した書籍「スマホで世界をねらうために知っておきたい3つのこと」では、これらの市場変容を的確に掴んでいる。


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オープンイノベーションのためのスタートアップショーケース

ヒット=儲かる、は間違い




 本書の中で、佐藤氏は「スマートフォンにおける衝撃は、ビジネスの主導権が通信会社からOSに移ったこと」と表現する。アプリマーケットも決済手段もOS側が決めるため、通信キャリア側もアプリ制作者もOS提供側のルールに沿う必要がある。

 さらに「100万超ダウンロードがヒットと定義されるが、売上が月額数十万しかないところもある」と厳しい現実を指摘。「ヒット=儲かる とは限らない」と説明。シリコンバレーのような売上のないアプリ「instagram」がfacebookに10億ドルで買収されるようなことは日本では難しく、「マネタイズありきでビジネスすること」を強く進めている。

 こういった指摘は、日本と海外で事業を展開し、その特徴を理解している佐藤氏の市場観があって初めてできることだと言えるだろう。

スマホは世界の共通マーケットプラットフォーム

 フィーチャーフォンの感覚でビジネスを考えると、そもそも収益性が低く、かつ海外のプレイヤーも競合になることは脅威意外の何のでもない。しかし、逆に、低コストで世界を対象としたビジネス展開を可能となったと考えると、競争スピードの面でガラケー時代とは比較にならないような好条件が整理されたとも言えるのだ。

 つまり、日本で成功して→海外もやってみる、という発想が大半を締める日本の中で、いきなり世界展開を目さすことも利にかなっているという発想だ。

 具体例として本書では、福岡の家具通販会社の子会社Nubee社がシンガポールで立ち上げたことを「日本のあれこれに巻き込まれずにすむ」と評価している。また、マインドパレット社のSnapeee (スタートアップよ企業の活力となれ 【増田 @maskin】)については「このビジネスでマネタイズが成功すれば、日本発世界展開のサービスが成功するのは間違いない」と言う。

 もちろん、世界展開をするプレイヤーは北米のみならず、世界2位の中国、その他の国にも存在するわけで、競争の激化は否めない。ただ、スマホコミュニケーションんという一大カテゴリを形成したLINEや、グリーやDeNA、2011年6月期で40億円、2012年6月期で237億円という売上を叩き出しネクソンに買収されたgloopsのようにソーシャルゲームで大きな成功を納めところも出ている。売上がほとんと無い「instagram」が2012年4月に、facebookから10億ドルで買収されるなど、劇速スマホ業界の変容スピードとあわせ、市場の可能性はまだまだ予想がつかない状態にあると言えるだろう。

 では、そんな中で、どう利益を出し、成功していくか。そんな疑問に本書は的確に応えていく。「売上トップ25の80%がフリーミアムモデル」「マネタイズトップ60%はゲーム」などなど。

 集客がスマホ戦略の鍵と定義し、iOS/Androidマーケットの特性を分析しつつ、アイコンや掲載情報、異質とも言える中国を含めた各国におけるマーケット状況や “トップ掲載” までに達成すべきダウンロード数など具体的手法が実績ベースで説明されているのが本書の強みと言えるだろう。

 若干、データに古さが認められる部分もあるが、実業の世界で戦っている佐藤氏の市場観と経験こそが要点であり、スマホでビジネスをする人なら一度は読んで間違いない内容だ。


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【関連URL】
・スマホで世界をねらうために知っておきたい3つのこと | Amazon.co.jp
http://www.amazon.co.jp/dp/4532318041/
・スタートアップよ企業の活力となれ 【増田 @maskin】
http://techwave.jp/archives/51770013.html

蛇足:僕はこう思ったッス
出版から少し時間が経過してしまったが、読みたい一冊だった。この本の特徴は、スマホビジネスの現在をきちんと切り取っているというところ。成長の延びしろの多さで世界が注目するアジア市場について、中国のみならず、韓国、台湾、シンガポール、ベトナムなどを網羅しているのがありがたい。
巻末に「失敗のほとんどは調査不足」という一文に深く共感。「これ作ってるんです」とプロダクトばかり主張して、具体的な数字がないスタートアップが多過ぎると感じていたからだ。本書がいいたい「失敗の理由」はまさにその点。逆に言えば、マーケットを把握し、集客手法を獲得し、成長市場を把握すれば、日本にいながら世界を狙うこともできるということになる。
楽観は禁物だが、マーケティングとノウハウ、そして成長市場アジアの3点を集中して考えるだけでスマホ対応はまず一歩前進したといってもいいだろう。
著者プロフィール:TechWave副編集長・イマジニア 増田(maskin)真樹
 夢を叶える技術者。8才でプログラマ、12才で起業。18才でライター。道具としてのIT/ネットを追求し、日米のIT/ネットをあれこれ見つつ、生み伝えることを生業として今ここに。1990年代はソフト/ハード開発&マーケティング→週刊アスキーなど多数のIT関連媒体で雑誌ライターとして疾走後、シリコンバレーで証券情報サービスベンチャーの起業に参画。帰国後、ネットエイジ等で複数のスタートアップに関与。関心空間、@cosme、ニフティやソニーなどのブログ&SNS国内展開に広く関与。坂本龍一氏などが参加するプロジェクトのブログ立ち上げなどを主導。 Rick Smolanの24hours in CyberSpaceの数少ない日本人被写体として現MITメディアラボ所長 伊藤穣一氏らと出演。活動タグは創出・スタートアップマーケティング・音楽・子ども・グローカル・共感 (現在、書籍「共感資本主義」執筆中)。書籍情報・ 詳しいプロフィールはこちら


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