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AppleのタブレットPCが近く発売されるとの見方が強まる中、電子書籍や電子新聞によって出版業界や新聞業界が再生を果たすのではないか、という期待が高まっているようだが、断言しよう。そんなことは絶対にありえない。
確かに電子書籍リーダーを購入した人は本をより多く購入する傾向にあるようだし(関連記事電子書籍リーダーを購入した人は書籍をより多く購入する=GigaOm)、新聞社のデジタル部門はそれなりに成長を続けているところもあるようだ。しかしそれは、従来の紙ベースの事業が激しく落ち込んでいる中での話だから、明るい話に聞こえるだけのこと。そこが明るいからといって、企業再生、業界再生をかけてリソースをそこに集中しても、企業も業界も縮小の一途をたどるだけである。
コンテンツをデジタル化するだけではだめなのだ。メディア事業の本質自体をインターネットという新しい環境に合わせて進化させなければならないのだ。
メディア事業の本質は、昔も今もコミュニティ運営である。コンテンツを読みたくて人が集まってくる。情報の周りにコミュニティができるのである。そしてそこにコミュニティがあるので、さらに情報が集まってくる。この正のスパイラルがメディア事業の本質なのだ。
日本経済新聞が分かりやすい例だろう。有益な情報が集まっているので、ビジネスマンが読者になる。多くのビジネスマンが読んでいるので、ビジネスマンにリーチしたい企業は日経に取り上げてもらいたいと思うようになる。広告を出稿したいと思うようになる。こうした情報が集まるので、日経はさらに読み応えが増す。これがさらに読者を増やす。そしてビジネスマンとして話題についていくには日経を読むことが必要条件となる。ここまできて初めて、メディア事業が収益性の高い事業として成立するわけである。
このコミュニティをインターネット上でどのように構築するのかが、メディア企業にとっての命題であるべきである。デジタル化ではなく、ソーシャル化に注力すべきなのである。ソーシャル化を進めるには徹底的なコスト削減と、最新のテクノロジーの導入が不可欠である。
それなのに、メディア企業の多くは、デジタル事業にのみ邁進している。コンテンツの保管庫への道をまっすぐに進んでいるのである。(関連記事マスメディアはコンテンツ置き場になってしまうだろう)
コンテンツ製造、保管業務が儲からないわけではない。ただ競争は激しい。同じようなコンテンツを持っているところが1社でもあれば、価格競争になってしまう。
そうならないための大同団結なのだろうが、そんなことをしても時間を止めることなどできない。デジタル情報革命の波を押返すことなどできないのだ。
産業革命が多くの手工業者、労働者を不要にしたように、デジタル情報革命は多くの情報流通業者を不要にしようとしている。機械の普及で失業することを恐れた手工業者、労働者が団結して機械破壊運動(ラッダイト運動)を起こしても産業革命は前に進んだように、メディア企業が団結してコンテンツの流通を拒んだとしてもデジタル情報革命は前に進むのである。その波に押し流されたくなければ波に逆らうのではなく、徹底したコスト削減と新しいテクノロジーの積極的活用でこの波を楽しむ、サーフィンするぐらいの気持ちがなければだめなのである。
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