インフルエンサーより「仲のいい少人数グループ重視」の時代へ 書評「Grouped」【湯川】

NewsGrouped, ダンバー数, ポール・アダムス

[読了時間:4分]
 インターネット上では情報が上から下の一方通行ではなく、相互に横に流れるー。そう言われるようになって久しいが、実際には「横の情報の流れ」の形ってはっきりと体系だって語られることが少なかった。マスメディアに代わって力を持つと言われるようになったインフルエンサーからの情報発信だって、所詮は上から下への一方通行の情報の流れ。

 ところが最近読んだ「Grouped: How small groups of friends are the key to influence on the social web (Voices That Matter)」という本の中には、横同士の相互の情報の流れについて興味深いデータや考察が幾つも掲載されていた。

 参考までに代表的なものを幾つか見てみよう。

大半のコミュニケーションは親密な数人が相手

 本の中で紹介されていたのは、Stefana Broadbent氏の調査結果。携帯電話の中に何百人もの電話番号が記載されていても、電話件数の80%は最も親密な4人が相手なんだそうだ。

 また著者のPaul Adams氏はFacebookの従業員なんだが、同社の内部データによると、Facebookユーザーの平均的な「友達」の人数は160人。実際にコメントしたり、「いいね!」したり、メッセージを送る相手は、週に平均4人。月で見ても6人しかいないという。

 どれだけコミュニケーションツールが発達しても、人間のコミュニケーションのほとんどは仲のいい少人数が相手、というのがこの本の最大の主張。マーケティングも、この少人数に向けてどう情報発信すべきかを考えるべきだという。

 実はこの本、2002年に出版された「The Tipping Point」という本が広めたインフルエンサー重視のマーケティングに対する反論という形で書かれている。Groupedを執筆したPaul Adams氏は「インフルエンサーを見つけるのは大変で、影響力も限定的。インフルエンサーを核にしたマーケティングはコストパフォーマンスが悪い」と主張している。

 インフルエンサー重視のマーケティングに反論するため、この本の中で同氏はいろいろなリサーチ結果を紹介している。

・7400万件のTweetのうち、1000回以上のRTを記録したのは20数件、1万件以上のRTを記録したのはわずか2,3件。「一人が多くの人に影響を与えることは非常に珍しい」E.Bakshy氏のTwitterに関するリサーチ「Everyone’s an influencer:Quantifying influence on Twitter」から

・ブランドに関する口コミの70%は、インフルエンサーではない一般のユーザーによるもの。残りの30%が、人口の15%を構成するインフルエンサーによる口コミ。(マーケティング・コンサルティング会社The Keller Fay Group

 消費行動に関する決断は、インフルエンサーからの影響ではなく、仲のいい人からの影響で無意識に行うものであることが分かってきたのだという。

 同氏によると、米国のマーケターは、インフルエンサー重視から、少人数の仲のいいグループを重視するマーケティングに移行し始めた。これがマーケターにとって2010年代の重要なテーマになるだろう、としている。

 We’re at the beginning of a cycle in business where we can move away from this idea of “influentials” and instead focus marketing activity on small connected groups of close friends. This shift is what marketers are starting to think about, and what will be the prominent theme for this decade.

時代変化の3つの背景

 マーケターの考え方に変化が現れた背景として、3つの要素があるという。

 1つは、インターネット上にリアルな人間関係が乗り始めたこと。これまでのネットは匿名でどこのだれか分からない人たちが、同じ興味でつながることが多かった。しかしFacebookの普及で、ネット上で実名で活動することが一般的になり、実際の友人関係がネット上でも可視化されるようになってきた。業界用語で言うと、バーチャル・ソーシャルグラフではなくリアル・ソーシャルグラフがインターネットの核になってきた、ということだ。

 2つ目は、消費者を一人ひとりの独立した存在として見るのではなく、人と人がつながったグループとして見る、という動きが広がってきたから。心理学でも神経科学でも、人とのつながりが人々の判断に大きな影響を与えることが分かってきたのだという。

 日本でよく知られている「注意」「関心」「欲求」「記憶」「行動」の頭文字を取った消費行動モデルであるAIDMAなどは、消費者を個々の独立した存在として考えているが、この本によると、少人数の仲のいいグループが消費行動にどう影響を与えるのか、という研究が始まっているのだという。

 3つ目は、人間関係が人々にどのような影響を与えるのかというデータを入手できるようになったこと。これはFacebookなどのソーシャルメディアの普及で初めて可能になった。これからますます多くのデータの入手が可能になるなかで、情報が人々の間をどのように流れていくのかが、より明らかになるものと思われる。

人のつながりの形

 インターネットがリアルな人間関係を反映するようになってきたのであれば、われわれは実際の人間関係により注目すべきだ、というのがこの本の著者Paul Adams氏の主張。人間関係は、次の2つの切り口で見ることができるという。

人間関係のパターンは5-15-50-150-500

 5というのは、精神的支えになってくれたり、困ったときに助けを求めることのできる相手の平均的な人数。家族とか親友とか自分にとって最も大事な人たちの数。

 次の15というのは、社会心理学がシンパシーグループと呼ぶ人たち。家族や親友ではないが、その人が亡くなれば大きな悲しみを経験するような人の数。

 次の50という数字は、比較的頻繁にコミュニケーションを取る人の数。

 150というのは、いわゆるダンバー数。人間の頭脳の大きさで決まる数字で、一人ひとりの名前を覚えていて、だれがだれだかをはっきり認識できる人の数。古代から中世にかけての集落の数は、だいたい150人だそうで、現代でも会社の事務所内の従業員の数が150人を超えると欠勤数が増えるという調査結果があるらしい。

 500というのはWeak ties、弱いつながり、と呼ばれるグループ。会ったことはあるけど、それほど親しくない人の数。人生を通じて500人以上の人と出会うわけだけど、実際に名前を覚えていられるのは500人程度だという。

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ほとんどの人は、まったく交わりのない友だちの輪を複数個(4つから6つ)持っている。学生時代の友人のグループ、仕事関係の友人のグループ、趣味の友人のグループなど。それなの友達の輪同士の交流はない。1つのグループのメンバーは10人以下。似た者同士でグループを形成している。

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その他の興味深い指摘、データ

・一緒に笑った相手には、より寛容になれる。(「Social laughter is correlated with an elevated pain threshold」 by Robin Dunbar)

・たとえ遠く離れている相手でも、「近況」や「Tweet」を発信する人に対しては「つながっている感覚」を感じる。(「Is it really about me? Message content in social awareness streams」by Rutgers University)

・幸福感の核になっているのが「人とのつながり」(「The Politics of Happiness: What Government Can Learn from the New Research on Well-Being」by Derek Bok)

・見返りを期待せずに、相手に情報を共有することがある。それは「役に立つ人」と見られたいから。(「Word-of-mouth as self-enhancement」by Andrea Wojnicki)

・人との会話の中で主な内容は、個人的な経験やゴシップ。人の悪口は5%程度。人からよく思われたいという気持ちが働くため。(「Grooming, Gossip, and the Evolution of Language」by Robin Dunbar)

・情報の流れは第三段階に
 第1段階は、企業サイトなどのウェブサイトが情報だけを掲示していた時代。コメント欄もなかった。

 第2段階は、コメント欄を設けたり、Twitterボタン、Facebookボタンをつけるウェブサイトが増えた段階。

 第3段階は、サイトの表示がユーザーの人間関係に沿って大きく変化するようになった段階。例えば一般ユーザーが手作りの品を販売できる米Etsy(エッツィ)はFacebookと連携が可能で、Facebookの友人のリストの中からプレゼントを贈りたい友人を選ぶと、その友人が「いいね!」ボタンを押した製品の履歴情報などから友人が欲しいと思うようなEtsy内の品を表示してくれるのだという。

・だれにでも通用するようなコンテンツではなく、少人数のグループ内で話題になるようなコンテンツを作ることが重要。

・イベントのチケットを販売するTicketmasterでは、ユーザーがチケットを購入したという情報を、そのユーザーのFacebook上の友人に流すことで1回当たり5ドル30セントの売上増につながっている。

・ソーシャルメディアは、新しい友人を見つけるために使われているのではなく、既にある人間関係を強化するために使われることが多い。オンラインでのコミュニケーションの結果、実際にオフラインで会う回数が増える傾向にある。(「The strength of internet ties」by the Pew Research Center)

・知人や専門家よりも友人、知人を3倍から4倍、信頼している。(Edelman Trust Barometer)

・ソーシャルネットワークのリサーチによると、人々が影響を与えることができるのは少人数で、影響を受けるのも少人数から。(「Effects of word-of mouth versus traditional marketing: Findings from an internet social networking site」by Michael Tursov他)

・弱い絆の人からの情報のほうが役に立つことが多い。強い絆の人たちは自分と同じ情報しか持っていないことが多いから。(「The strength of weak ties」by Mark Granovetter)

・弱い絆の人からの情報のほうが有益だったとしても、強い絆の情報を重視しようとする。信頼できる人からの情報だから。

蛇足:オレはこう思う

 こうした話って、日本でもミクシィの原田明典副社長が早くから指摘してきたことだし、TechWaveでも同志社大学の学生(当時)だった水谷翔さんが蔓延する誤った「ソーシャルメディア」の定義、という寄稿で、1年半も前に同様の主張をしている。

 だから目新しい話ではないんだけど、それを統計やリサーチを多用して主張しているのがおもしろいと思った。著者のPaul Adams氏ってGoogle勤務時代に「Facebookのソーシャルグラフは本当の人間関係を表せていない」と批判したことで有名になり、その後、Facebookに移籍した人物。この辺りのことへの問題意識を早くから持っていた上に、Facebook内部で実際に各種データを見ているのだろうから、主張には説得力がある。

 彼の指摘が正しければ、マーケティングもメディアや企業の有り様も、今後大きく変わる可能性がある。少人数の仲のいいグループにどう情報を流していくことが効果的なのか、というところが、今後のテーマになるのだと思う。

 FacebookもAdams氏を招き入れて、このような書籍の出版を容認したということは、こうした新しいマーケティングを可能にするような枠組みを組み立ててくると考えて間違いないだろう。

 具体的には、どのような枠組みになるのか。その形は、ミクシィやバスキュールが中心になって日本で先行して一部実践が始まっている。(関連記事:ソーシャル広告はミクシィが完成させFacebookが普及させる

蛇足:僕はこう思ったッス


fMC TokyoでもGroupedの話題をベースとした講演があった(Meg Slolan氏)。当面のターゲットはこの領域と強く主張している。

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ちなみに「LINE」は、そもそも5-15-50くらいの領域を狙っている。時代の変容というかスッポリ空いたマーケットに勝機を見い出す流れが生まれたということ。当然先行者メリットもある。

僕は地方に在住し、東京を中心とした全国にネットワークを構築している状態。親密な近所付きあいが核にあり、主に都内にいる親しい知人友人、そしてネットでつながる全国の人達という関係があり、それが5(家族)-15(ご近所)-50(親しい友人)-150(仕事などで密接な人)-500(記事やイベントのつながり)という具合になっているため、肌感覚としてこの事象をとらえている。

ただ、ご近所ずきあいな希薄な人も多いこの時代、もしかするとネットに存在感や「機能」を求めているのかもしれないと思うようなこともあった。

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