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去る2013年3月11日、福岡県Ruby・デジタルコンテンツ振興会議が主催するイベント「Ruby東京ミーティング」が秋葉原UDX GALLERYで開催された。
「Ruby東京プレゼンテーション」は毎年開催されており、今回で4回目。
このイベント会場内のセッションで誕生し、福岡県が主導する形で、2010年6月25日に経済産業省の地域イノベーション創出研究開発事業として採択されたことを受け開発が進められた「ハードウェア組み込み用途に適した軽量版Ruby」。
今回は、「mruby」と名付けられら軽量版Rubyが主役となり、ロボットや組み込み技術、3Dプリンター、プロトタイピング、フィジカルコンピューティングなどなど、“リアル x IT の乱戦状態” を模した見所満載のイベントとなった。
モノ作りの参入障壁が下がり、プロトタイピング・小ロットの領域に革命が発生している
最大の見所は、Makers本の最大の関心毎である3Dプリンターと、モノにITイノベーションを授ける組み込みソフトの関係性だ。
3Dプリンター側からは、機器メーカーであるホットプロシード 湯前裕介氏と、3Dプリンター等を活用した整形事業を展開するジェイ・エム・シー 渡邊大介氏が登壇。
Makersブームを誤読した一般ユーザーの「3Dプリンターで何でも作れるんでしょ?」という発想を一蹴しつつ、研究開発向けプロトタイピング用途や小ロットのプロダクトについての可能性を示唆した。
ハードウェア分野の潮流の変化は、3Dプリンターだけに特化した話ではない。CEREVO 岩佐氏の記事でも指摘されるが (「3Dプリンターってもんが起こすであろう革命と現在の3Dプリンターの限界、そしてもっと知るべきCNCのチカラ【岩佐琢磨 @Cerevo】」)、CNCにもっと目を向けるべきだし、そもそもハードウェアの初期コストや生産コストは、この10年で劇的な低減が発生している。
つまり、Makersブームで指摘されるハード&ものづくりの潮流の変化は、3Dプリンターだけに限定されたものではないということ。ただ、得にプロトタイピングや小ロット生産の部分には革命的な事象が発生しており、Makersブームの到来により「従来のハード開発者以外の需要が増加している」(前出:整形事業を展開するジェイ・エム・シー 渡邊大介氏_)という動きもある。
3Dプリンター と 組み込みmruby の狭間で、
ここで大切なのは、整形事業以外の部分である。例えば、米クラウドファンディングサイト「Kickstarter」で火がついたPebbleのように、通信をするし、カスタマイズができるハードxITのモノづくりの分野は、従来は日本が得意な部分といえる傾向もあったが、現在は手薄といわざるを得ない。
ハード生産の新潮流により、プロトタイピングからスタートして、小ロットのプロダクト、需要を見ながら生産という流れの実現可能性が高まっている。では、「どんどんガジェットのようなITプロダクトを生めばいいじゃないか」ということになるのだが、簡単な動作をするものをキットで開発するのならともかく、高度かつ信頼性やリアルタイム性を持った機能を組み込むとなるとC言語のスキルが不可欠となる。
Ruby / mruby 開発者 まつもとゆきひろ氏は、mrubyについてこのように話す。
「現状は、アプリそのものが既にあって、本質な機能が用意されている状態で、そこに柔軟性を持たせるのが得意です」。
mrubyは、速度的な問題で、現状ではリアルタイム性を必要とする組み込み用途には適切とはいえない。そこで、組み込み機器に搭載されている、Cやトロン系のアプリ/プログラムを直接呼出して使用することができるようになっている。mrubyの機能をCのアプリから呼び出すこともできるため、既存の資産を活用したまま柔軟性を付与することができるようになる。
さらに「プラットフォームに依存しませんので、プロセッサがarmでもインテルでも、OSがLinuxでも、OSそのものが無いような状態でもmrubyを搭載することが可能です」(まつもと氏)というように、既存の車や家電といった組み込みソフト/アプリが浸透し、長年の経験が蓄積された業界にも適用できるようになっているのがmrubyの特徴の一つとなっている。
このように考えると、実はmrubyは、プロトタイピングのように「すぐに作って色々ためしたい」という用途にも優れたコード生産性で貢献可能で、マスプロダクトで使用されているような既存の組み込み用途にも適用できると、幅広い領域を埋める役割を果たすのである。
とはいえ、非常に見えにくい話の流れなのは間違いない。そこで、フィジカルコンピューティングなどで著名なIAMAS (情報科学芸術大学大学院) 小林茂氏が「ハードウェアでスケッチする」という重要なキーワードを紹介して頂いた。
つまり、ハードウェア側の視点でソフトをデザインする考え方といってもいいだろう。この言葉は、ハードウェアとITイノベーションの関係を明確にするだけに止まらず、単にプログラミング言語ができればそれでいいというわけでないという組み込み領域 (ハード x IT)の難しさと、その反面イノベーションの源泉に満ちあふれている領域であることを的確に表現してくれているように思える。
mrubyは既存の資産をカバーしつつ、ITxものづくりの空白を埋めるもの
まつもと氏は「工業製品として組み込み領域にmrubyが入る余地がない」とも言う。それは限定されたメモリ容量や確立された業界だからという点もあると考えられるが、今後、mrubyが進化し、多くの開発者が利用し、開発コミュニティやカルチャーが生まれ育つことで「マスプロダクトへの利用可能性も出てくるかもしれない」(まつもと氏)。
実は、mrubyの製品導入は少しずつスタートしている。例えば、IIJのルーターでは、mrubyで特定のイベントを処理する機能を実現し、今後、ユーザーが任意でmrubyアプリを追加できる仕組みを検討中だ。
「Ruby東京プレゼンテーション2013」予想のつかない議論の流れ、一時はどうなるかと思う一幕もあったが、モノ x ITの未来を示唆する非常にすばらしい内容となった。
今後、カンファレンスの内容の詳細や、展示内容について順次記事を公開していく考えだ。
【関連URL】
・ものづくり x mruby、総本山イベント「Ruby東京プレゼンテーション2013」開催 【増田 @maskin】
http://techwave.jp/archives/51782020.html
・3Dプリンターってもんが起こすであろう革命と現在の3Dプリンターの限界、そしてもっと知るべきCNCのチカラ【岩佐琢磨 @Cerevo】
http://techwave.jp/archives/51772596.html
最後にまつもと氏は「mrubyは、ハード x IT(組み込みソフト/アプリ)の流れをつくるもの」という言葉を使った。Makersブームで火がついたハードウェアへの関心とソフトウェア/アプリの関係性を明確にし、産業全体に変容をもたらす可能性をもつmrubyを今後も積極的に応援していきたい。
なお、今晩(3月12日) 19時30分からNHK「クローズアップ現代」で3Dプリンタ特集があり、当イベントに登壇したIAMAS (情報科学芸術大学大学院) 小林茂氏が出演されるとのこと!
変化し続ける高エネルギー生命体。8才でプログラマ、12才で起業。18才でライター。道具としてのIT/ネットを追求し、日米のIT/ネットをあれこれ見つつ、生み伝えることを生業として今ここに。1990年代はソフト/ハード開発&マーケティング→週刊アスキーなど多数のIT関連媒体で雑誌ライターとして疾走後、シリコンバレーで証券情報サービスベンチャーの起業に参画。帰国後、ネットエイジ等で複数のスタートアップに関与。関心空間、@cosme、ニフティやソニーなどのブログ&SNS国内展開に広く関与。坂本龍一氏などが参加するプロジェクトのブログ立ち上げなどを主導。 Rick Smolanの24hours in CyberSpaceの数少ない日本人被写体として現MITメディアラボ所長 伊藤穣一氏らと出演。活動タグは創出・スタートアップ・マーケティング・音楽・子ども・グローカル・共感 (現在、書籍「共感資本主義」「リーンスタートアップ」執筆中)。@宇都宮ー地方から全国、世界へを体現中。