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LINEは2016年7月14日朝、米ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場を果たした。その直後、7月14日 13時(日本時間の7月15日午前2時)にニューヨークにいるLINE 取締役 舛田淳 氏に話を伺った。
開口一番に「ちょっと疲れましたね」と話す舛田氏は、現地の熱気とこれから始まる大きな取り組みに胸を踊らせているようだった。なお同社は日本時間の7月15日、日本でも東証に上場している (インタビュワー TechWave 編集長 増田真樹 aka maskin)。
TechWave 増田:
上場おめでとうございます。ニューヨークの様子はいかがですか?
LINE 舛田氏:
当然我々も初めてのことなので、どういう空気になるのかわからなかったのですが、実際に上場の鐘を鳴らし初値がついたことを踏まえて考えると、我々への期待値が高かったんだな、ということだと思います。NYSE全体が「ウェルカム!」というムードになっているように感じました。期待感からくる熱量がすごかったですね。
TechWave 増田:
ニューヨークはLINEのことを把握した上でそういった熱視線を送ってきていたんですね。
LINE 舛田氏:
そういうことだと思います。LINEは節目節目で評価をされてきたと思うんですが、我々が上場を検討し始めた2014年はうなぎのぼりで毎月毎月トラックレコードを更新していた時期で、MAUが全て、どんどんユーザーを増やしていこうと考えていたんです。ただ、そのタイミングは、まだ上場すべき時期ではなかったと思うんですね。
TechWave 増田:
上場する条件が整ったのが今だとすると、その条件というのはどういったものなのでしょうか?
LINE 舛田氏:
当時、“世界” という言葉は非常にあいまいだったと思うんです。その時、我々はどういう会社であるべきで、どういうサービスを提供し、どういう未来を描いていくかということを徹底的に考えていくことが必要だと思ったんです。
というのも “世界” といっても、FacebookやWhat’s up messengerといった競合がいる中で、我々がユーザーベースだけを闇雲に拡げていくことに何も意味はないんじゃないか? 例えば、ユーザーベースだけが拡大していってもマネタイズができないのであれば、我々は継続的な成長はできないのではないか? その継続的成長こそが我々の目指すところであり、決して上場して終わりではないということなんだと思ったんです。
そのために何をしなければならないかというと、それぞれの国においてトップシェアを取ってドミナント(最も優勢なもの)にならないといけない。万年3位とか2位の国を山ほどつくっても、それはいわば見せかけのMAUであって本質的なMAUではないわけですね。
上場に至る3つのポイント = アジアフォーカス・カルチャライズ・スマートポータル
LINE 舛田氏:
2015年、我々はまずアジアにフォーカスし、その中でもキーカントリーにフォーカスするという方針を打ち出しました。多様な選択肢がある中で、欧米ではなくて我々がまず未来に向け成長していけるフィールドとしてアジアに舵を切ったわけです。また、その上で、メッセンジャーとしてではなくプラットフォームになろうと考えました。
プラットフォームのあり方を考えた時、“スマートポータル”になるだろうと思いました。“プラットフォーム”は、提供する側の言葉なんですよね。一方で “スマートポータル”はユーザー側の言葉なんです。ユーザーから見た時、LINEはどんなものかというと、ここから色々なものにアクセスできる。色々なニーズを満たすことができる。24時間、365日、良いコンテンツ、楽しいコンテンツを利用できるというのが我々の目指す世界なんです。
実はこのスマートポータルという言葉は、我々が考える「カルチャライズ」という概念と密接的なんですね。かつ、我々が世界の競合を戦っていくためにも重要なポイントになるんです。
なぜならば、モバイルのスマートポータルをオンライン・オフライン双方で実現しようとした時に、画一的にグローバル展開するポータルでは太刀打ちできないんですね。オフラインで施策を展開しようとした時に、パートナーシップが重要だったり、それぞれの国や地域の考え方やルールに従い事業をアジャストしていかないといけない。オペレーションプロセスなんかも変えていかないといけない。色々なオペレーションプロセスがあるのだけど、それを “LINE化” していく。それが我々がやれることであり、それがカルチャライズということで、我々しかできないことでもあるわけです。
これは攻めの戦略でもあり、守りの戦略でもある。シリコンバレー発の競合に対し、日本発のグローバル企業として勝負を挑むにはこの方法しかないと思っています。良いも悪いも含め、我々はアジアで生まれ、日本で生まれたサービスであり、シリコンバレーで生まれたサービスのようにはならないんですね。だからこそ、取れる戦略、取るべき戦略ってものはあるだろうなと思うんです。それがアジアフォーカスであったり、カルチャライズであったり、スマートポータルであるわけなんです。その3つの条件が整ったから今こそ上場のタイミングになったのです。今であれば、我々のやり方で新しい一歩を踏み出せる。歴史を作りにいける、そう自信をもって言えるのが今なんです。
「LINE化された世界」が必要な理由
TechWave 増田:
LINEはサービス開始当初から世界観を掲げ、ぶれずに付き抜け続けてきました。今、世界2市場上場を迎え、アジアフォーカス・カルチャライズ・スマートポータル、それら3つのキーワードが揃ったことで “LINE化” ができるようになるということですが、そもそも実現しようとしている「LINE化された世界」というのはどういったものなのでしょうか。改めておきかせ下さい。
LINE 舛田氏:
答えになっているかどうかわからないのですが、我々はミッションを掲げたんですね。それが「ゴジェック(Go-Jek)」と共にタクシーを配車できるサービスの提供を開始しました。
またタイでは、ランチを食べにいくにも大渋滞で時間内に移動できるエリアが限定されてしまう。でもランチを食べにいきたい。そういったところで出てきたのがフードデリバリーサービスの「LINE MAN」でした。これを日本でやろうとしても文化や賃金などの違いから実現は難しい。こういった事例はカルチャライズのシンボリックな事例と言えるでしょう。
オンラインサービス提供側から見れば、タイの事情はわからない。そういった提供側からみれば「何でそんなアナログなサービスをやらなくちゃいけないんだ?」と思うことすらあるでしょう。ただ、LINEタイのメンバーは、「この事業はLINEがやるべきことで、これをやらないと私達の生活は豊かにならない」とさえ言うんです。「この事業はタイだけしか提供できないかもしれないけど、(私達には)重要なんだ」というんです。そういった発想が我々の中から生まれ出てくるようになったんです。スマートポータルというのはこういうものだと思うんです。国や地域にしかないニーズにあわせて変わっていくものだと。それがLINEができることであり、やるべきことだと思ったわけです。
本質的なものはメッセンジャーサービスがケアする “絆” がベースにあります。そのアクティブ度をうまく使いながら「Closing the distance」のその他のものを展開していく。それは24時間、365日の生活の中で考えられるものであり、それを実現できるのは我々しかいないと思うのです。
「LINE化された世界」が必要な理由
TechWave 増田:
色々な国や地域、コミュニティにサービスをアジャストする。そんな、ある種アジア的なきめ細やかな「カルチャライズ」戦略を、欧米の人達はどう受け止めているのでしょうか?
LINE 舛田氏:
ニューヨークでの上場にあたり、投資家まわりをしてきたわけですが、当初は「MAUの話」ばかりしていました。ただ、我々がアジアフォーカスで、このようなキーカントリーで、このようなカルチャライズをしていくという説明をすると、みなさん見事に納得してくれたんですね。「そういえばメッセンジャーってマネタイズできるんだっけ?」そういった大いなる疑問はそもそもみなさん持っていたんですね。
一方LINEは、maskinさんはずっと見てきてくれていたように、一歩一歩、前例のなかったメッセンジャー事業のマネタイズに向きあってきました。実績を出し続けてきたわけです。今ではシリコンバレーでも当たり前に「LINEはこういうもの」と認められ、スタンプなども参入があいつぐようになりましたが、サービス開始当初は「なんでこんな子供のおもちゃみたいなものをやるんだ」と言われ続けてきました。
「メッセンジャーにスタンプなんで邪魔」と言われても、我々は「そんなことはない、これがスマートフォンだ、コミュニケーションの未来だ」とつらぬいてきました。スマートフォン時代のプラットフォームなるんだと。その結果、各社がメッセンジャーをベースにプラットフォーム戦略を採るようになっています。
LINEの将来のラインナップを考える時、メッセンジャーサービスの中で生まれる接点、そこから色々なものが始まる。話す相手は人間ではないかもしれない(ボットサービス)。そういった一つ一つのことを説明していくと、そもそもファンダメンタルが強いということをご理解していただき、稀有な成果だと評価されたんじゃないかなと思っています。
日米同時上場の意味
TechWave 増田:
ニューヨークと東京。 2つの市場での上場を迎えたわけですが、これからLINEはどんな道筋をたどってゆくのでしょうか?
LINE 舛田氏:
日米同時上場について「テクニカルな理由がきっかけだ」などと一部で言う人もいますが、そうではありません。
そもそもNYSEと東証、両方で上場することを本気で決めたのは2016年初頭のことなんですね。
それまではオプションとしては考えていましたが、基本的には日本とは別に考えていました。
同時上場にはどんな意味があるか。
当然同時上場となると手続コストは倍になりますから色々大変なわけですよ。
経営陣と議論する中で、「東京だけでいいんじゃないか」という意見が強い時もありましたし、私自身もそう思ってきた部分もありました。
最終的に同時上場に踏み切った理由としては、いくつかあるのですが、まず、私たちのような会社は日本市場には存在しない ということがあります。私達がビジョンをもって今後成長を続けるには、世界で成長するライバルがいる環境で同じ基準で見ていただかなければいけない。
厳しい目にさらされるかもしれませんが、そのような場に立つことで、我々の成長に必ずつながる。そんな風に思ったのです。我々はグローバル企業なわけですから、東京のみならずニューヨークで上場することで企業としての透明性の担保が可能になる。みなさんを不安にさせることなくサービスを提供する企業として、これまではプライベートカンパニーでしたが、より我々を知って頂くために日米同時上場が必要でした。
もう一つは、我々の心意気や志の問題です。そもそもLINEが生まれた会社ネイバージャパンが何で設立されたかというと、そもそも海外展開をするための会社としてだったんですね。ですから我々がそもそも持っていたDNAと真摯に向きあおうじゃないかと考えたんです。例えば、日本でNo1のサービスを提供して、東京だけで上場したとすると、もしかするとその事実だけで「もう、これでいいや」って思ってしまうかもしれない。我々はグローバルを目指してきた会社で、グローバルに向け挑戦をし続けている。ある種のオリジンというか初心を忘れないように、ずっとグローバルで挑戦をし続ける会社であり続けるように、やはりアメリカでも上場するという判断をしたわけです。テクニカルなことはその後にあったことですね。
「志という旗を世界のど真ん中に立てていく」
TechWave 増田:
LINEのサービスが誕生してから5年。たった5年かもしれませんが、色々なドラマがありました。
それでもみなさんは「まだまだ、これからがスタート」と言い続け、理念に従い貪欲にチャレンジをし続けてきたように思います。
今、その数々のドラマを乗りこえて本当のスタートを迎えらました。舛田さんの今のお気持ちをおきかせ下さい。
LINE 舛田氏:
長かったのか、短かかったのか、よくわからないのですが、順風満帆ではありませんでした。
maskinさんはずっと観てきてくれていてご存知だと思いますが、LINEは誰かに求められて出てきたサービスではありませんでした。
(「ほとんどの人がピンときてなかった」LINE、世界2500万ユーザー突破の軌跡【増田(@maskin)真樹】)
その中でサービスを見出して、そして成長して。
さまざまな問題もありましたし、さまざまな失敗もありました。
私自身の判断ミスも含めて沢山のことがあったわけですね。
そんな中でメンバーは、自分たちならやれる、やりたいんだ。そういう気持がありました。
根拠があるかないかで言うと、なかったですね。
それでも前に進む気持ちがあるんだと思い続けたのがこの5年ですね。
一つの通過点でしかないんですが、その節目が今日という日でありますし、この日を迎えるからにはさらなる挑戦というか冒険に対し腹をくくったというのが今日ですかね。
あとは、これは完全に個人の意見なのですが、NYSEの鐘のこちら側に立ち、この光景を見た日本人や韓国人、アジア人っていないんだよなって思ったんです。
ただ、自分たちができたということは、それに続くインターネット業界の後輩たちもできる。今するそういう人達がでてくるとは思いませんが、今後のインターネット業界をみた時に、ここに私達が立てた “旗” が後輩達の役に立てばいいなと思います。
TechWave 増田:
今回の日米同時上場は、多くの人に大きな刺激と勇気を与えたと思います。
LINE 舛田氏:
何よりうれしかったのは、NYSE上場の光景をみて、LINEの外の皆さんから「誇らしい」といってもらえたことですね。
私個人としてそういってもらえることは本当に嬉しいし、このことが後に続く方の何らかの役に立てればいいなと思います。
(了)
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http://techwave.jp/tag/line
僕にとってのLINEは、日本で初めての本質的なグローバルスタートアップであり、日本人である僕にとってのIT経済の象徴だった。世界を考え、せまい島国日本から大きな志をもつにはテクノロジーとビジョンしかないと、事業者としてのLINEは挑戦をし続けてきた。打算や妥協ではなく、ユーザー目線で社会を変える。そのプロセス全てが希望だったように思う。
メディアとしてのTechWaveは箸にも棒にも掛からない状態だけど、2011年頭からずっと距離を保ちつつLINEチームと心を共にし、今、こういった話を聞けることは、彼らが絆を信じ続けてきたからに他ならないように思う。LINEの日米上場の意味は、数字だけに限らず、次の世代に大きな何かを残したと思う。
おめでとう。そしてありがとう。