- 雨を降らせる機械からiPhone電脳メガネまで「自分が欲しいから作った」Mashup Awardめっちゃ楽しい12作品【鈴木まなみ】 - 2013-11-19
- スマホアプリは大手有利の時代【湯川】 - 2013-07-05
- そしてMacBook Airは僕にとっての神マシンとなった【湯川鶴章】 - 2013-06-14
ソフトバンクを絶賛しようと考えていた。それほどソフトバンクが打ち出したiPad雑誌読み放題サービスの「ビューン」は僕にとって衝撃的だった。今朝から実際に内容を見てみようとアクセスを試みたのだが、なかなかコンテンツがダウンロードされない。アクセスが殺到しているのだろう。それほどビューンに対する期待が高いのだと思う。
2時間ほど待ってやっとダウンロードできた週刊ダイヤモンドの目次をみて愕然とした。中身がスカスカなのである。
特集記事でさえ、全部読むことができない。5分の2しか読めないのだ。あとは書評とかだけ。完全に紙への誘導目的のチラ見せである。
確かにビューンのサイトには「すべての記事が読めるわけではない」と書いてある。
(注) ほとんどの雑誌で発売日当日から主要な記事が配信され、順次更新されていきます。 (配信開始のタイミングや分量は、雑誌によって異なります。) 各メディアについて、全ての記事がお読みいただけるわけでありません。
でもここまでスカスカとは思わなかった。
紙への誘導目的ならば無料にすべきだ。最初は450円を安いと考えていたが、すべてのコンテンツがこんな感じならめちゃくちゃ高いアプリだ。
順次コンテンツが追加されるのだろうか。ほかの雑誌はもっとコンテンツが詰まっているのだろうか。ほかの雑誌はまだダウンロードされそうにないので分からない。もしほかの雑誌コンテンツが紙の雑誌と同レベルの量であることが分かれば、お詫びと訂正のエントリーを書きたいと思う。
以下に書きかけのエントリーを参考までに添付する。週刊ダイヤモンドのコンテンツがダウンロードできる前に、こんな感じで原稿を書いていた。もちろん「忘れていた。日本にはスティーブ・ジョブズはいないが、孫正義がいたことを」の部分は、完全に取り消しとさせていただきたい。
◎450円でiPad雑誌読み放題の謎
iPadは、電子書籍などタブレットという形状をフルに利用したコンテンツがなければ、単に画面を大きくしただけのiPhoneである。コンテンツがそろって初めてその価値を最大限に発揮できるデバイスである。もちろんスティーブ・ジョブズはそのことを理解しているので、iPad発売以前から雑誌社などのコンテンツホルダーを回ってiPadへのコンテンツ提供を呼びかけていた。しかし日本のAppleにはジョブズはいない。なので日本ではiPad向けにコンテンツが揃うのはまだ先のことだと考えていた。
忘れていた。日本にはスティーブ・ジョブズはいないが、孫正義がいたことを。
ソフトバンクがiPad向け新聞、電子書籍読み放題のサービス「ビューン」を月額450円で始めた。早速アプリをダウンロードしたが、アクセスが殺到しているためか、なかなかすべてのコンテンツをダウンロードできない。まだ発表通りのサービスなのか確認できていない。
でも正直驚いた。発表通りのサービスであるならば提供されている30以上の新聞、雑誌、テレビコンテンツが読み放題で450円である。しかも毎日新聞、Friday、AERA、週間朝日、週刊ダイヤモンド、PRESIDENT、DIMEなど読みたい雑誌、新聞が揃っている。
この枠組が成立したことが不思議でならない。ほんとに今後もこの価格、この品揃えでサービスが成立するのだろうか。今回は単なる実験的な取り組みで、すぐに打ち切りになるのではないか。読めるのはごくごく一部のコンテンツだけで、大半のコンテンツを読むには紙の雑誌を購入しなければならないのではないか。いろいろ勘ぐってしまう。業界の内情を知る元メディア人としては、それほどの快挙だと思う。
どういう事情が作用して、この枠組が成立したのだろうか。2つの可能性が考えられる。
1つは、メディア企業は今どこも台所が火の車で目の前のニンジンに飛びついた、ということ。もしかするとソフトバンクから特別の優遇コンテンツ料が支払われているのかもしれない。メディアの大変革期において確固たる長期戦略を持つメディア企業などまずない。どの社の中長期戦略も非常にあいまいなものだ。だって自分たちが得意とする古い情報流通のあり方を排除しようとする大きな波が押し寄せているのである。明るい未来図など描けるわけがない。そして「可能性が不透明な中長期ビジョン」と「短期の増収策」の二者択一だと、秀才の合議制は必ず後者を選択する。たとえ短期の増収策がジリ貧であることが分かっていても、不透明な中長期的ビジョンにかけてすべてを失うより目の前の増収策を選ぶものだ。リスクの高い中長期ビジョンにかけることができるのは、天才経営者かペテン師だけである。なので日本のメディア企業を動かすのは、比較的簡単である。目の前にニンジンをぶら下げればいいだけなのだ。
もう1つはメディア企業側がiPadの可能性を理解していないということ。iPhoneにコンテンツを提供するのと同じような感覚で、iPadへのコンテンツ提供を決めたのかもしれない。そうだとすれば大変な間違いである。iPhoneの小さな画面は新聞、雑誌の完全な代替にはならない。iPhoneで読めるのなら雑誌は不要だという人もいるだろうが、全員ではない。一方で、iPadは完全な代替になりうる。iPadで読めるのならほぼ全員が雑誌は不要と考えるだろう。
恐らくこの2つの両方が合わさってコンテンツ提供を決めたのだろう。
iPadへ破格の価格でコンテンツを提供したことで紙のメディアはさらに売れなくなるだろう。一方でiPadでのコンテンツ提供事業は人気を集めるだろうが、この価格をベースにして分配される売上金では、現在のコンテンツの質を長期的に維持することは不可能だ。
iPadにコンテンツを提供しなくても地獄、提供しても地獄である。メディア企業には申し訳ないが、これはある意味仕方のないことなんだ。歴史の必然なのだと思う。
【追記】
期待していただけに、厳しい表現のエントリーになりました。
でも現状を考えると、この程度が精一杯かなと思います。孫さんには、引き続き頑張っていただきたいと思います。
【追記2】
いろいろとダウンロードできるようになってきた。
やはり基本スカスカ感がある。
【関連記事】
Tech Wave : 電子書籍、電子新聞による業界再生は絶対にありえない
池田信夫vs湯川鶴章「電子書籍の未来」言いたい放題
Googleが電子書籍の最大の品ぞろえを確保できた理由、市場独占できない理由【湯川】
iPad発売に向けたコンテンツ提供者との交渉難航=今回はAppleの神通力も通じない?【湯川】
iPad登場でAmazonの電子書籍のシェア激減へ=米アナリスト予測