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11月21日(木)にモスクワ中心部のモスクワ・デジタルビジネススペースで「VCV conf 2019」が開催された。
VCVconfは、HR領域で、チャットボットやAIによる画像解析などの最先端技術を使って、企業の人材採用プロセスを効率化するクラウドソリューションを提供している「VCV」というスタートアップ主催のビジネスカンファレンスである。
複雑な人材採用はAI活用でも解決は難しい
本カンファレンスは、今年で2回目の開催となる。海外・国内の大手企業の採用戦略や、HR領域のテクノロジートレンドを語るビジネスセッション、各種ネットワーキングなどから構成される。今年は700人以上のHR関係者が参加し、FacebookやGEなどのグローバルカンパニーも含めて、20人以上の業界トップマネージャーがスピーカーとして登壇した。
キーノートスピーチでは、オープンソースのAIプラットフォームで最もホットなスタートアップ「H2O.ai」のデータサイエンティストが、人材採用におけるAI技術の導入について登壇した。
キーノートスピーチを務めたデータサイエンティストのPavel Pleskov氏(H2O.ai)
Pleskov氏によれば「HR領域の課題は、現状のAI技術では早晩解決できないほど複雑である」という。この複雑な課題を解決する為には、圧倒的にデータ量が足りておらず、例えGoogleのデータ量を持ってしても、足りないほどだ。ある調査では、AIによって代替できない仕事の一つは、リクルーターだという。
HR領域に応用できるAI技術としては、チャットボット、画像認識、NLP(自然言語処理)の3つが挙げられた。中でも、Pleskov氏は、今後最も発展する可能性がある分野として、NLPに注目しているという。
様々なツールを駆使する“ソーサーの役割”
米国Facebookで人材採用プロセスにおけるソーシング戦略を担当するGrekov氏からは、米国市場におけるソーサー (英:sourcer) の役割の説明や、日常使っているデジタルマーケティングツールなどの具体的なテーマに至るまでプレゼンテーションが行われた。
Facebook(USA)のSenior sourcing strategist, Alla Grekov氏
様々なツールを駆使して、候補者のリードを獲得し、能力テストや採用面接を通して、候補者のフィルタリングとエンゲージメント向上のバランスをとっていくソーサーの仕事は、非常に高度な技術が要求され、それ一つが職業として成立していることに、ロシア国内のリクルーター達も驚いているようであった。
退職者、日本では“裏切り者”
VCVconf登壇のために、今回ロシアを訪れたGEヘルスケア・ジャパンの桜庭氏からは、日本のHR業界の特徴や、欧米市場との差異について非常に示唆に富むセッションが行われた。
GEヘルスケア・ジャパンで執行役員・人事本部長を務める桜庭 理奈氏
日本では、人材紹介会社が2万社以上存在しており、LinkedInは労働者の2.6%しか登録されていない為(UK:83.1%、US:66.1%)、ダイレクトリクルーティングの市場が欧米と大きく異なる点、また、未だ多くの日本企業が退職者を「裏切り者」として認識している点などが指摘され、会場を驚かせた。
会場に対して行われた「日本人に対しリクルーティングを行ったことがあるか」という質問に関しては、会場内で2-3人が手を上げていた。一方で、桜庭氏からは、日本人の候補者は英語できたメールやメッセージなどは内容も確認しないので、メールの表題だけでも日本語で書いた方がいいという具体的なアドバイスも行われた。
HRはバックエンドではなく、ビジネスサイドに置くべき
Ulmart創業者のFedorinov氏は、ビジネスサイドと社内のHRがどのようにコミュニケーションすべきかというテーマについて、各企業のHR担当者や人材紹介会社から、多くの質問が行われた。
ロシア大手EコマースサイトUlmart創業者のSergey Fedorinov氏を交えてのセッション
Ulmartのように急成長を遂げたスタートアップ企業の中では、毎月のように大量のエンジニア採用が求められる。トップマネージャーが採用戦略をよく理解せずに、トップダウンでリクルーターにKPIを敷き、丸投げするような問題が多く見受けられるようだ。これに対し、Fedorinov氏は自身の経験も踏まえ、明確に「HRはバックオフィスではなく、ビジネスサイドにおくべきだ」との主張を掲げ、L’OrealやZberbank(ロシア最大の商業銀行)のHR担当者も、それぞれ社内では、トップマネジメントからの理解のもと、ビジネスサイドと協業して採用戦略を組んでいるとの事例が共有された。
現在、「VCV」のソリューションは、ロシアでは、ユニリーバやMETROをはじめとしたグローバル企業、Yandexなどの地場の大手企業に広く導入されている。また、日本では、2019年から人材派遣会社ウィルグループの支援のもと、日本法人を設立し、事業展開を行っている。
日本進出するロシアスタートアップの支援という文脈で、VCVconf2019では、弊社もインフォパートナーとして、協賛しており、サンクトペテルブルク、モスクワの商工会を通して、在ロの日系企業の参加を促している。当日は、在モスクワの日系大手IT企業や、大手商社の担当者が参加し、VCVが提供するソリューション自体にも興味を持っていたようだ。
【関連URL】
・VCV日本法人
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蛇足: 僕はこう思いました
ロシアのビジネスイベントというと、あまり準備されていないスピーカーセッションや、ほとんど守られることのないタイムキーピングなどが散見され、お粗末な印象をうけることも少なくないが、こういった細かいところまでしっかり設計できるようなスタートアップだからこそ、日本進出することができたのではないだろうか。
VCVの今後の日本での活躍にも期待したい。