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iPhoneでウェブを見て回っていると、ときどき完全に表示されないページがある。大きな空白の中に青いロゴが表示される場合は、Flashと呼ばれる技術がその空白部分に使用されていてiPhoneでは表示されないことを意味する。
Flashは米Adobeが開発したアニメーションや動画の表示技術で、ウェブページに動きを持たせたい場合に使用されることが多い。iPhoneはこのFlashに対応していないのだ。
iPhoneの小さな画面でウェブを見て回ろうというユーザーはそう多くなかったので、iPhoneのFlash非対応はそれほど問題視されなかった。しかしAppleが米で発売したiPadは画面が十分に大きいので、普通のパソコンのように使いたいというニーズがある。なのでAppleのFlash非対応に注目が集まるようになった。
なぜAppleはFlashに対応しないのだろう。
AppleのCEOであるスティーブ・ジョブズ氏が、Flashの悪口を言っているという話があちらこちらから聞こえてきた(関連記事:ジョブズ氏がFlashをこき下ろしたという情報再び)
ジョブズ氏は、「Flashを使うと電池の減りが速くなり、1回の充電で10時間利用できるiPadが1時間半しか持たない」「パソコンの不具合はFlashが原因で起こることが多い」などと批判したという。
こうしたAppleやジョブズ氏のFlashに対する態度に、AdobeのFlash担当者がまず個人的に怒りを自分のブログでぶつけ始めた。(関連記事:Flash未対応のiPadのウェブ体験は「最高」じゃない=Adobe社員がポルノサイトなどを例に批判)
舌戦が激しくなる中、AdobeはMicrosoft、Googleと接近し始めた。Microsoft、Googleともにスマートフォンでひとり勝ちするAppleに待ったをかけるべく対抗機種の開発を急いでいるからだ。敵の敵は味方というわけだ。(関連記事:「AndroidでFlashサクサク動きます」=AdobeブログがAppleに皮肉?、Windows Phone 7の3つの特徴と3つの課題、iPhoneに載せないのならWindows PhoneにFlash載せます=Adobe開発者)
AdobeのFlash担当者が指摘するように、Flashを搭載するウェブページは決して少なくない。完全なウェブページを見たいユーザーがiPhoneやiPadから離れていくのだろうか。それともiPhone、iPadの揺るぎない人気の前にFlash搭載をやめるウェブサイトが増えてくるのだろうか。
どちらが勝つかはまだ分からないが、ヴァージン・アメリカ航空はサイトのリニューアルを行った際にFlashの使用を止めてしまった。Flashに代替する技術を提供する業者も出始めた。(関連記事:米航空のサイトがFlash削除。恐るべしiPhoneの影響力、iPadにFlashなくても大丈夫=BrightcoveがHTML5ビデオで代替します【湯川】)
こうした中、AdobeはiPhone向けのFlash開発をついに中止した。米紙Los Angeles Timesは「AdobeはAppleの宣戦布告を受け入れた」と評している。(関連記事:AdobeついにiPhone向けFlash開発中止=「宣戦布告受け入れた」【湯川】)。AdobeがApple提訴の準備を始めたという情報もある。ただし、これはまだ具体化していない。(関連記事:堪忍袋の緒が切れた?AdobeがついにApple提訴へ=米ITWrold【湯川】)
一方でGoogleのスマートフォン向け基本ソフト(OS)「Android」はバージョン2.2からFlashに対応することが明らかになった。今年秋以降に発売されるAndroidケータイでは、Flash搭載ページも完全に表示されるようになるようだ。これはiPhoneとの差別化の大きなポイントになりそうだ。(関連記事:Android2.2からFlashをフルサポート=NYタイムズ【湯川】)
この件に関して公の場での発言を控えていたジョブズ氏は、公開書簡をネット上にアップした。MyGengoがそれを全文翻訳してくれているので、それから引用。Thank you, MyGengo
私は顧客や評論家の方々にiPhone、iPod、iPadにFlashを搭載しない理由をより良く理解していただくため、私達のアドビのFlash(フラッシュ)製品への考えを書き留めたいと思いました。アドビ社は私達の決定を主にビジネス上の理由からと述べています。彼らは私達がApp Store(アップストア)を守りたいのだと言っています。しかし、実際のところはテクノロジーの問題が理由なのです。アドビ社は私達はクローズドシステムだと主張しており、Flashはオープンだと言っています。しかし、実際にはその反対が真実です。説明していきましょう。
Flashを搭載しない理由は次の通り。
・オープン性
アドビ社のFlash製品は100%独占権を持つ製品です。アドビ社から購入することしかできず、将来的な機能の向上、価格設定などに関してアドビ社のみが唯一権限を持っています。Flashはクローズドシステムです。
・Flashなしでもほとんどのサイトが見れるようになってきている
ウェブ上の75%の動画はFlashによるものなので、アップルのモバイル機器は「完全なウェブ」にはアクセスできないとアドビ社は繰り返し発言しています。このうち触れられていないのは、ほとんど全ての動画はさらに新しい形式であるH.264でも見ることができ、iPhone、iPod、iPadで視聴可能であるということです。
・信頼性、セキュリティー、パフォーマンス
Flashを加えることにより、私達のiPhone、iPod、iPadの信頼性とセキュリティーを損ないたくはありません。
・バッテリー寿命
iPhoneでは H.264の動画は最長10時間再生できますが、ソフトウェアでデコードされた動画は5時間も再生するとバッテリーが完全に無くなってしまいます。
・タッチスクリーン
Flashは指を使うタッチスクリーン用ではなく、マウスを使用するPC用にデザインされたもの。タッチをベースにした機器をサポートするためにほとんどのFlashのウェブサイトを作り直す必要がある
・サードパーティに主導権を渡したくない
ソフトのサードパーティーがプラットフォームとディベロッパーの間に介在すると最終的にサブ・スタンダードなアプリを生み、プラットフォームの強化と進歩を妨げる結果になることを私達は痛い経験を通して知っているのです。私達のディベロッパーが強化されたプラットフォームの利用ができるかどうか、いつ利用できるのかをサードパーティーの意のままに決定させるわけにはいきません。
以上がジョブズ氏の見解だ。これに対してAdobeのCEOであるShantanu Narayen氏はWall Street Journalのインタビューに応える形で反論している。
「AdobeとAppleは異なる世界観も持っている」「Adobeはマルチプラットフォームだ」
Narayen氏の主張は、要約すると、iPhone、iPadこそクローズドなシステムだし、開発者はiPhone向けと、それ以外の機種向けに同じアプリの別バージョンを開発しないとならない、というものだ。
詳しくはengadgetが記事化してくれている。
Narayen CEOいわく、アップルのクロスコンパイラ規制によって開発者はワークフローを二重に用意しなければならず、重荷になると反論。MacでFlashが頻繁にクラッシュするという点については、「アップルのOSに原因がある」。Flashはバッテリーを消費させるという点については「明白な間違い」とし、ハードウェアアクセラレーションに対応できるよう情報を公開してくれればいい、Macでは実現した、と切り返しています。またいつまでも繰り返される、Flashはオープンでないという批判については「卒直に言って、その指摘にはおかしみを思います。 Flashはオープンな仕様です」と回答。許可がなければアプリを公開できないiPhoneはオープンなのだろうかと指摘しています。
どちらの言い分が正しいのか素人にはなかなか分からないが、こうした対立が続く中でも、Flashを不要にするような技術革新は進んでいる。
スティーブ・ジョブズ氏は、ウェブページの表記言語であるHTMLがバージョン5に改訂されれば、Flashがなくても大丈夫だと主張する。このHTML5は、AppleだけでなくGoogleも推進しているスタンダード。このほどMicrosoftもHTML5支持を前面に押し出した。
TechCrunchはMicrosoftがAppleやGoogleと同調”Webの未来はHTML5だ”–IE固有仕様がやっと一掃へという記事の中で次のように報じている。
“Webの未来はHTML5だ”、MicrosoftのIE担当ゼネラルマネージャDean Hachamovitchが、Webビデオに関するブログ記事にこう書いてる。Microsoftは今後もFlashをサポートするが、しかしHTML5とFlashは仲が良くない。Microsoftが今後HTML5を表看板にすれば、Webサイトのデザイナーはまた大きく、Flashから解放されることになる。
このブログ記事は、HTML5のビデオでMicrosoftがH.264コーデックのみをサポートする計画だ、とはっきり書いている。Flashのプレーヤーも今ではH.264をサポートしているが、H.264のビデオが世間に増えればそれは、IE9、Safari、ChromeなどのHTML5ブラウザでそのまま再生できるから、Flashのプレーヤーはますます要らなくなる。
▼独禁法関連の調査対象に?
米紙New York Postは、米政府がAppleに対し独占禁止法に関連した調査を始める可能性があると報じている。(Tech Wave:独禁法関連でAppleが調査対象に?=NY Post紙)
この報道を受け、Wall Street Journal紙も後追い取材をし、同様の内容の記事を書いている。(Tech Wave:独禁法関連で米政府がAppleを予備調査へ=WSJ紙【湯川】)
▼AppleがFlash代替技術を開発中?
Cnetの記事「アップル、「Flash」に代わる製品を開発中か–米報道:ニュース – CNET Japan」